十五、古武井浜の鰮騒動(大正十三年)

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 大正十三年十一月二十五日、尻岸内村字古武井の網元斉藤留五郎の曳網で鰮の大漁があった。
 ところが誰が言い出したものか「古武井の斉藤では、鰮が大漁で始末に困り、鰮を海に投げ捨てた」という噂が立ち、この噂が忽ち尻岸内本村方面に伝わり「鰮を拾いに行こう」ということになり、老人も若い者も磯舟や川崎船に乗り込み、百数十名の人々が分乗し、古武井の浜の斉藤漁場に群れ集った。斉藤漁場の人々が、「あれよあれよ」と見る間に、斉藤方でとっておいた鰮の袋網の附近を「八尺」というもので、思い思いに鰮をすくい上げ、袋網を三つとも掻(か)き破り、約三百五十石もの鰮を流し、これをすくい上げて引き揚げた。
 戸井分署ではこの事件を重く見、こういうことを放任しておけば、こういう悪弊を増長させる原因になるということで、当直巡査一人を残して全員尻岸内古武井に出動して調査し、六十四名の容疑者(ようぎしゃ)を検挙して取調べた。
 然しこのように多数の容疑者を処分するのは、村民の不安動揺を来さしめると考え、厳重説諭を加えた上容疑者に対し、漁獲した鰮を全部被害者に返させ、杉本検事正と打合わせの結果、全員を起訴猶予にした。