椴法華沖の魚類

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 椴法華の沖合には、通称「くせ根」「高根」「蒸気根」その他昭和五十年度から昭和五十四年度までの五年間に設置されたジャンボブロック、円筒型ブロック等の大型魚礁による漁場が形成されており、カレイ類、ホッケ類、タラ類、カジカ類、ソイ類等が生息しイカ、イワシ、サバ、サンマ、マグロなどが回遊してくることが知られている。(昭和五十四年度、椴法華地区人工礁漁場造成事業調査報告書抄録を参考とする。)
 
○次にこれらの中から生息している魚類とその特性及び底棲生物について記すことにする。
カレイ類
 アブラガレイ、ヒレグロカレイ、ソウハチガレイ、ババガレイ、アサバガレイ、サメガレイ、マコガレイ属、オヒョウ
ホッケ類
 ホッケ、キタノホッケ
タラ類
 マダラ、スケトウダラ、エゾイソアイナメ
カジカ類
 ヨコスジカジカ、オニカジカ、ヤギシリカジカ、ヤリカジカ、ツマグロカジカ、トウベツカジカ
ソイ類
 ヤナギノマイ、エゾメバル、シマゾイ
 
・カレイ類の特性
一 アブラガレイ
 ・産卵習性、産卵期は十月下旬から一月の間に行われ、殊に十二月がその最盛期で産卵群の漁獲水深は主として五百メートルから八百メートルの深海である、産卵群の伸長は室蘭のものでは雌五十センチから六十四センチ、雄四十一センチから四十八センチが主群となっている。抱卵数は二十万から四十万粒である。
 ・漁期と漁獲分布、一般的に十二月を中心とする主漁期には、七百五十メートルから千メートルの深海では体長四十センチから六十センチの高年群、二百五十メートルから四百五十メートル水域では二十センチから四十センチの中年群、五十センチから百五十メートルの浅海では十五から二十五センチの若年群の分布が認められている。
 ・食性
   噴火湾における六月から七月の小型魚(体長十センチから十八センチ)では、スケトウダラ〓仔、エビ類、テミスト、及びその他の端脚類を摂餌している。八戸沖の成魚では、魚類(キチジ、マダラ、スケトウダラ)、エビ類、オキアミ、エビジャコ、などである。
 ・調査海域の魚群
   体長範囲二十八センチから四十七センチで未成魚の群れである。八月まで最多魚種であったが九月には二尾しか漁獲されず、沖合に移動したものと思われる。
 
二 ヒレグロカレイ
 ・漁期と漁獲分布
   漁期は三月から五月の春期と十月から十一月の秋期の二回ある。分布の中心深度は時によって異なり、冬期及び春期には深く、夏期には浅くなる。すなわち一月から四月は三百五十メートル層、五月から六月は二百五十メートル層、八月は百五十メートル層と冬から夏にかけて漸次浅くなるが、九月から十二月には再び深くなって二百五十メートル層が分布の中心となる。なお産卵期は四から七月と推定され体長三十センチ以上になると成熟卵を持つ
 ・年齢と生長
   満一年で六センチ、二年で十四センチ、三年で十九センチ、四年で二十四センチと推測される。
 ・食性
   ゴカイ類、端脚類を最も多く摂餌し、この他にオキアミ類、エビ類、小型の二枚貝も食べている。また中に砂も入っていることがあり、よく砂泥中の生物をとることを物語っている。
 地査海域の魚群
   体長範囲は二十から三十四センチで産卵盛期、産卵後と思われる生殖巣が観察されなかったことより、索餌のため沖合より接岸した未成魚の群と考えられる。
 
三 ババガレイ
 ・生態についての一般的知見
   襟裳以西海域では周年漁業の対象になる密度の薄い群れと産卵前期に沿岸ぞいに二百から二百五十メートル等深を西行南下する密度の濃い群れが存在する。漁業の対象になるのは後者の移動群で漁期は十一月から一月である。定着性のは恵山から襟裳岬の東にまで広く分布しているが、密度の高いところは恵山岬から噴火湾口、地球岬から苫小牧などといくつかに分かれている。
   西行南下する産卵廻遊群は、標識放流の結果から三陸沖にまで達することが知られている。定着性の群れが産卵するのは、一月から四月であるが、漁獲される数は少ない。産み出された卵は透明な浮遊性分離卵である。稚魚の生活については、ほとんど知られておらず、十センチくらいの幼魚は沿岸水域に見られ、成長とともにだんだんと沖合いに生活の場を移す。
  ○成長は一年で五から十センチ、二年で十二から十八センチ、三年で約二十センチになり雄ではこのころから若干ではあるが繁殖活動に参加するようになり、雌では二十五から二十八センチで産卵をおこなうようになる。
  成魚は夏冬の深浅移動と、二、三月の産卵移動が顕著にみられる。
 ・食性
   ヒレグロカレイと同様に口は小さく上下唇が肥厚し、餌をとるとき同筒状に延びるようになっていて、砂や泥の中に棲んでいるゴカイ類をさがし出すのに都合よく出来ている。すなわち食性はゴカイ類が最も多く、次に端脚類とクモヒトデ類でこれらが主な餌料となっている。
   この他にエビ類、オキアミ類、あるいはウミケムシ、小型二枚貝などを摂餌している。
 ・調査海域の魚群
   体長範囲は二十一センチから四十一センチで成魚と未成魚の混合群である。夏から冬にかけて沿岸より沖合に移動する習性から、これより沖合に移動する定着性の群と思われる。
 
四 ソウハチガレイ
 ・産卵と成長
   産卵の早いものは三月中旬ごろから行われ、おそいものは八月上、中旬ごろで終了する。産卵の盛期は六月から七月で、産卵場所は噴火湾口から湾内にかけて形成されるものと推定される。
   産み出された卵は無色透明の浮遊性分離卵で受精後九十時間くらいで孵化し、その時の稚魚の大きさは全長三・三ミリ前後である。満一年で五センチ、二年で九センチ、三年で十二センチ、四年で十六センチ、五年で二十二センチとなる。
 ・漁獲物の体長
   襟裳岬以西海域の八月末調査によれば、八十メートル以浅では体長十三から二十センチのものが主要部を占め、体長二十センチ以上の大きなものはきわめて少ない。水深百メートル前後では体長十六から二十三センチと二十五から三十四センチの中型及び大型群の二つに分けられ、小型魚はほとんどみられない。一般に大型魚の漁獲割合の多いのは六月中旬から八月上旬で水深九十から百五十メートル水域の漁場に多い。
 ・食性
   オキアミが最も多く、次いで魚類の幼稚魚(スケトウダラ、カジカ類)クモヒトデ類、エビ類の幼生、環形動物の順となる。このほかにエビジャコ、二枚貝、イカ類などが食べられている。
 ・調査海域の魚群
   体長範囲は十七から三十センチで放卵後の卵巣が多数観察されたことから産卵後の成魚の群と思われる。
 
五 ホッケ
 ・産卵期と産卵場所
   産卵期は北に早く南におそい、全道では九月から十二月で、南茅部町周辺では、ごく一部のものは十一月に産卵する。
   産卵床は距岸七十-四百五十メートル、水深六から三十メートルの岩礁地帯あるいは岩盤を基底とするゴロタ石地帯で、これらの小凹部や裂け目、岩礁に付着している石灰藻の間、ゴロタ石の小間隙に産卵する。
   産卵された卵は相互に密着し、かたい卵塊となる。多回産卵で一産卵期に平均三回放卵し、一卵塊は四千粒である。受精卵は六十五日で孵化する。孵化直後の稚魚の全長は九ミリ内外である。
 ・生長と群性
   孵化後六ケ月未満の体長七から十八センチの幼魚は、その体色から一般にアオボッケといわれ、産卵場を基点に外海に向かって扇状に広く分布する。アオボッケは二から八月に出現し、夜間表層を昼間は表層近くを遊泳する。
   体長十八から二十四センチのものをローソクボッケ、二十二から二十八センチのものは、ハルボッケと呼ばれている。満一・五年になったこれらは四月から六月にこの海域全般に出現し、旋網、定置網で大量に漁獲される。
   この年の十一月から十二月に満二年となり、日本海では一部産卵群に加わる。満二年(二十八センチ)の一部と満三年(三十三センチ)以上になると成魚となりネボッケと呼ばれ根附魚となる。太平洋では約三十五センチ以上にならないと成魚とならない。成魚は十一月から十二月の産卵期と五から六月の索餌期には沿岸近く密集するが、それ以外は比較的分散傾向を示している。産卵場が岩礁地帯に限られているため棲息場もその附近にあり、密集期には水深六から三十メートル、分散期には水深百五十メートルから二百メートル付近の底層に棲息している。
 ・食性
   稚魚は小型甲殼類がほとんどで、幼魚になると数種類の甲殼類、毛顎類、魚類、カニの幼生などである。ローソクボッケになると、それまでの表層生活から底層生活になるためか上記甲殼類のほかに、ヨコエビ類、ワレカラ類などを摂餌している。ハルボッケはほとんどイサダ(オキアミ、矢虫類、テミスト、カラヌス類)を飽食している。ネボッケは根附魚となるため、餌生物は多種多様で、未成魚期に摂餌している甲穀類から底棲生物(塩虫、コガイ類、イソメ類、ヒトデ類、二枚貝、テングサ)遊泳生物(イワシ、スルメイカ、アジ、サバ、クラゲ等)その他小石もみられる。特に産卵期の胃中にはホッケ卵(受精した卵塊)が相当数食べられており、その貪食性がうかがわれる。
 ○調査海域の魚群
   体長範囲は二十三センチから四十一センチで太平洋系のものは約三十五センチ以上にならないと成魚にならないので、ほとんどが未成魚で、一部この秋に成魚となる群と、すでに根付魚となっている若干の成魚と、来年以降成魚となる三つの群と思われる。