昭和八年頃の夏の日

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 昭和八年六月二十三日、古武井椴法華間の道路が開通し、交通の便が従来と比べて大変便利になったため、様々な職業の人々が椴法華村を訪れるようになった。特にこれらの人達の多い時期は、例年五月頃から十月頃までで、大きな柳行李(こうり)を背負った薬屋・木箱を背負った菓子屋・風車のついた桶を乗せた飴屋・天秤(てんびん)棒でやってくる金魚屋・手押し車にキセルの材料を乗せピィーピィーと音をたてながらやってくる羅宇(らお)屋(キセルの修理と販売をする)「エー桶のわいれー」と独特な調子の桶修理・「トーギー・トーギー」とやって来る刃物のとぎ師・「コウモリ傘・コウモリ傘」とやって来る傘屋・尺八を持った虚無僧・三味線を持った門付(かどつけ)などがあった。
 次に記す詩は函館で歌われたものであるが、椴法華の村でもきっと静かな夏の午後こんな風景が見られたことであろう。なんとなくのどかな昔日の空気がただよって来るようである。緑色の風が吹き、窓にかけたスダレ越しに遠くから、羅宇(らお)屋のピィーという音が聞えてくるような気がする。
        (青いツララ、片平庸人)
   通る
  通る、通る
   小路の日なた
    くずれた溝を
  金魚屋が またぎ
    気うとく通る
  曲る、曲る
   小路の午後の
    日まわり垣根
  羅宇屋の 笛が
    気うとく曲る
  通る 通る
    小路の日かげ
    すだれの向う
  研屋が ふれて
    気うとく通る