津軽海峡には大きな三つの潮の流れがあり、五百石・千石といった北前船でもこれを渡ることは容易なことではなく、「日和待(ひよりまち)」といって風向や天候・潮かげんを港でじっと待つこともあったが、この難所を小さな「繩とじ船」や「丸木船」で渡る人々もたまには見られた。また鳴海健太郎著『下北の海運と文化』によれば急用の場合は、風がなくとも櫓を多数用いて海峡を渡る「押切船」があったと記されている。
次に小船で津軽海峡を横断した例を二、三記することにする。
元文元年(一七三六)松前より三百石積繩緘(なわとじ)船入津(大畑港)『原始謾筆風土年表』
天明四年(一七八四)尻屋の孫四郎なるもの丸木舟で松前から大畑につく『下北地方史年表』