函館の詩文家齋藤大硯は夙に名を成していたが、名勝川汲温泉の風趣を求めて来村した。その滞留中溪谷温泉を歎賞して鶴泉記(鶴の湯温泉の記)を草し、之を大幅に揮毫して館主山中幾太郎に与えた。今日同館秘蔵の文化財である。<小林露竹編「南茅部町史年表」より>
鶴泉記
下川汲峠峻坂険路﨑嶇□羊腸降來半里豁然洞開常緑之境一廓一戸層樓臨水温泉出山即是鶴泉矣往昔有鶴飛去飛来入泉出泉一日飛翔白雲揺曳去不知行鶴實浴泉醫其創痍遂鳴謝去乎泉故有鶴湯之称爾來百七十餘年連綿山中氏之所領也泉者無色透明玲瓏如玉質刺度性百病多験春夏秋冬人常不絶東西南北各夙頭泉量豊潤懸瀑數條旁有薬王殿函館深瀬氏之建立也距泉半里則噴火湾一望五火山是非地文學上之名□耶隔此海峡禽鳥種別分千南北動物學上所謂武氏線是也鉱物豊富海産饒多共遠有名泉在海抜百五十尺之高山気幽邃青嵐迫窻若夫春風五月櫻雲壓谿清秋九月名月満前川静閑如此以足養共神焉予偶在此宿痾再發淹留半歳今病漸瘉将帰干家即擬彼鶴之長鳴一去而留斯一文云爾
大正丙辰初夏山中君清嘱 大硯 □
斉藤大硯 書 山中治所蔵
小林露竹編「南茅部町史年表」より>