南茅部方言のきわだつ特長は、東北地方の特長でもあるズーズー弁といわれる鼻濁音化する独特の音韻をもっていることである。同じ町内でも方言によりその形(音節や濁音)が多少ちがいがあり、個人によっても「ゆれ」がある。
「日本語と北海道方言」には、
「カ行・タ行及びチャ行以外の音は濁音化しない。
サ行音・ハ行音が、ザ行音・バ行音にはならない。
カ行・タ行などでも濁音化しない場合がある」。
と指摘している。
小林好日があげる東北の方言の濁音化しない(・・・・・・)六つの場合とは
① 促音の次にある場合 カッケ ミッカ
② 鼻音の次にある場合 ナンクセ モンク
③ 長母音の次にある場合 ローカ キューカ
この種のものは、ほとんど漢語・外来語で国語化していないために濁らないのかも知れぬ。
④ 〓、〓等無声母音の次にある場合 キケン フケ(頭垢)
⑤ 指小辞コは濁らない イヌコ トリコ
⑥ 擬声語が音声表徴を伴う場合 ポカリ パカパカ
①②⑤⑥は道南でも全く濁音化しない。
③④の道南の調査
a 長母音の次にある場合
モーカル ホーキ ゾーキン ローカ ホーチョー
ガ ギ ギ ガ ヂョ
外来語 スカート ショート スタート スターターなどの外来語は濁音化していない。
ボタン(ボダン)ラクダ(ラグダ)などは外来語でも濁音化反応を示している。
などの用例をもっているとおもわれる。
次に音韻の特徴を例をあげて示す。
足(あし)→アス(‥) 鷲(わし)→ワス(‥) 土→チヂ(‥‥) 地図→ツ(‥)ヅ
イとエの混乱(イでもエでもない)
五十音図 イ・エとは別個の発音が、イモをエモという。どちらかというと、つまったイ、イでもエでもないがエに近い。
いい→エエ 烏賊(いか)→エガ 芋(いも)→エモ 息(いき)→エギ
石(いし)→エシ 苺(いちご)→エヂゴ 五(いつ)つ→エヅツ 燻(いぶ)す→エブス
椅子(いす)→エス 職員室(しょくいんしつ)→ショクエンシヅ 一杯(いっぱい)→エッペ
前掛(まえかけ)・前垂(まえだれ)→マイカケ・マイダレ
ヒがシになる傾向 オシサマ
マ行のミがメになるもの
みみず→メメズ・メメジ 見(み)える→メル
ニがネになるもの
逃(に)げる→ネゲル 煮(に)えた→ネダ 人参(にんじん)→ネンジン
葱(ねぎ)→ニギ
語韻以外のカ・タ行音を濁音化させる傾向
エガ(烏賊) イダマシ・イダワシ カガト
語韻以外のザ・ダ・バ行音の前が鼻音(ン)化しやすい
エンダ(枝)エンド(井戸)
ナ(ン)ズキ
二音でなく一音節である
眠(ねむ)った→ネッタ・ネタ
促音 撥音 拍観念
連母音の同化
大根(だいこん)→デコ 映画(えいが)→エーガー 浅(あさ)い→アセ 悪(わる)い→ワリ 手拭(てぬぐ)い→テヌギ
長音の短呼化(短縮化)または省略化
時計(とけい)→トケ 近(ちか)い→チケ 黒(くろ)い→クレ 家(いえ)→エ 一杯(いっぱい)→エッペ 赤(あか)い→アゲ
主に一音節の名詞の長音化
目→メー 歯→ハー 家→エー 手→テー
破裂音の(学校)のがと、通鼻音の(小学校)のがの混乱を指摘する人がいるが、これはここの方言がもっている本来の型ではなく調査などのとき、たまたま乱れた人が対象になったものと思われる。
北海道方言(道南海岸方言の範疇)として全国的に知られている方言に「シバレル」(凍てつく)「オバンデス」(今晩は)「シガ・スガ」(氷・氷柱(つらら))などがある。
「コワイ」(くたびれる・疲れる)「アズマシイ」(気楽なこと)「ウダデ」(もの凄く)「ネマル」(坐る)などもある。
自分のことをオラ・オレ、相手をナ・オメということも目立ったいい方である。オメは相手一般につかうが、ナは両親や目上の人には用いない。方言の中にも叮嚀語があるということである。食べろということをケというが、目上にはケといわずカセ・カサマイという。
カチャペネ(貧弱・頼りない) ステケシ(期待はずれ)
ヘラカレ(えぐい)カラキジ(疳癪・短気)
マガダシネ(間にあわない)カマドケシ(家屋敷を失うこと)
ツラツケネ(あつかましい)
助詞のニ(場所)とヘ(方向)がサであらわされることが多い。
学校へ行く→ガッコサエグ 私にください→オラサケロ
動詞の命令形 見ろがミレ、寐ろをネレ、食べろがタベレとなる。
接尾語にみられるベ エグベ(行こう) クーベ(食べよう)
話しの言いつぎにつかうセバ……スケ
鼻濁音 サカナ→サガナ お茶→オヂャ
中間音 イモ→エ(・)モ(イでもエでもない)
音節 拗音 一音節を二字で表記する音 神社(じんじゃ)→ジンザ
撥音 「ン・ん」はねる音
促音 「ツ・つ」つまる音 アオグ・ナテ・マタ。
長音 先生→センセ
長音を伴う語の音節が変化するもの
ぶどう→ブンド ごぼう→ゴンボ きのう→キンノ ぼうず→ボンズ
転意
イモは馬鈴薯いわゆるジャガイモといわれるもののほか、五升芋、二度芋ともいわれる。
イモはエモに近い音韻でいわれるが、
類語の混同するもの
カマ→釜、ヤカン、鉄瓶を区別なくカマということが多い。
ズガ→画用紙、画も同じくズガと使っていた。
共通語と意味の異なる使いかた
共通語「疲れた」 方言コワイ
「捨てる」 ナゲル(「ブッドバス」ともいう)
(手袋)ツケル ハク
勿体ない イタマシイ
親しみをますため、ほとんどの名詞に無差別に「こ」をつけて話す
茶碗コ 舟コ 魚コ 鳥コ おもちゃコ アメコ・アメッコ
強調のための接頭語をもつもの
「どん」+命令形 「寝ろ」→ドン・ブセ
食べろ→ドン・マ食(グ)ラエ
「ぶ」 +○ ブッ・コワス、ブッチャグ、ブシカル、ブ・モドス
○ +「くせ」 ハンカ・クセ、ジャマクセ、バガクセ
これは全国的に使われているもの
罵り語 クソタラシ