調査に関わるエピソード       船越雄治

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 石造物研究会は、約8年前に発足したが、研究テーマが超マニアックであることから、入会したメンバーは65歳以上の高齢男性であった。当時は10人以上の会員が在籍し月1回の例会では、マイカーに分乗し山野を駆け巡った。時にはナタ、鎌、ノコを手にして道を切り開きながら山の急斜面を進むこともあった。こうして目指した石造物に出会えた時は我々にとっては至福の瞬間であった。しかし寄る年波に勝てず、脱落者が出て、5年後には8人が残るだけとなった。しかし皆の意欲は衰えることなく、今までの成果を冊子に残しておこうとの気運が盛り上った。「他の類似の冊子とは一線を画するものを作ろう」との提案を受けて寺社の石造物を全て計測する作業からスタートした。以下はその時の苦労やエピソードを綴ったものである。
1.計測作業
  ①2~3人でチームを編成し計測に当たれば、スムーズに運ぶことは解っていたが出来なかった。メンバー全員が他にも社会的に重要な役割を担っているので、その合間を縫って、単独で計測をせざるを得なかった。1年間で終了させる予定であったが、2年を要した。
  ②当初、計測方法が明示されていなかったので、迷いながらの作業だった。途中で計測方法の見直しがあったので、調査済みの寺社を再度訪問することもあった。
  ③計測道具 3m巻尺で計測できるものは、1人作業でも可能であったが、5m以上になると1人作業は困難であった。高価な計測道具でなく独自の計測道具を自作してスムーズに正確に作業を進めたメンバーもいた。
  ④計測道具(主として巻尺)を現場に置き忘れ翌日回収に行ったり、灯籠は複雑な形状なので突起に腰があたり2mの高さから落下したこともあった。
2.形式の分類
 狛犬、灯籠、鳥居については、形式も調査する必要がある事に気付き調査済み寺社を再訪問した。
3.銘文の判読
 メンバーを一番悩ませたのが文字の判読である。風化が進んで文字なのか、単なる凸凹か不明であり、初めて目にする文字に出会って、どう処理してよいのか、判断がつかずしばし石造物の前で立ち尽くすこともあった。しかし当会には古文書研究会のメンバーが在籍しているのでほぼ全ての文字を判読できた。
4.天候
 夏は
  ①雷雨 調査に熱中していると、天候の急変に気付かない。雷雨、雷鳴、雷光に慌ててマイカーに逃げ込むこともあった。
  ②やぶ蚊 場所によっては10匹以上のやぶ蚊に取りつかれ、調査どころではなくなったこともある。
  ③マムシ 調査に熱中しているとマムシがいても気付かない。他の蛇は先に逃げてくれるが、マムシは逃げない、足元50cmの距離でトグロを巻いていた。
  ④高温、多湿 (高齢者のため)熱中症となり易いので小まめに水分補給した。
 冬は
  ①雪 記録用紙に雪が降ることもあった。雨でないから、そのままにしておいたら帰宅するまでの車中でシワだらけになっていた。
  ②寒さ 手がこごえるので手袋をしての作業になるが、記録も計測もスムーズには出来なかった。
  ③氷 手水鉢の水溜部の水深も対象だったので、氷を割ることもあった。
5.写真撮影
 撮影を担当した2人には更なる負担がかかった。鮮明な写真を撮影出来るように、次の3原則が揃って初めてシャッターを押した。晴天、斜め上から射す順光線、正対位置からの撮影を心掛けた。
 今日は朝から晴れているから撮影は順調と意気込んで出かけたものの、現場に着くと急に曇って来たり、晴れてはいるが傍らにある立木が影を落として石造物が二つに割れている様な写真が出来あがることもあった。
 そのため、ひとつの石造物を撮影するため2~3度通うことは当たり前であった。
6.その他
 寺社の境内を長時間、ウロツクため、賽銭泥棒と感違いされることもあった。
 郷土史研究会専用の帽子、ジャンパー姿で調査するとその心配は解消した。