地方豪族が通常そうであるように、津軽安藤氏の場合も、その出自の実態についてはまったく不明である。
しかし他の中世豪族とは異なり、蝦夷と密接な関係を持つ系図が作成されていることには注目すべきであろう。この蝦夷に連なるという系譜認識は、中世を通じて維持され、その末裔である近世大名・明治華族秋田氏となっても、その解釈はともかくとして、この特異な系譜認識だけは受け継がれていった。
安藤氏に関する系図は多数あるが、内容から整理して『藤崎系図』『安藤系図』『秋田家系図』『下国伊駒安陪姓之家譜』をそれぞれの代表とする四系列のものが知られている。また『下国伊駒安陪姓之家譜』をめぐっては、北海道に残った安藤氏の末裔である下国氏によって多数の関連系譜が作成されたが(史料一一五四)、その全貌は、今後の研究課題として残されている。
これら四系統の系譜相互の間には異同が多く、とくに古い時代については、それらから正しい系譜を導き出すことは今となっては不可能といえよう。
そもそも系図自体、自家を賛美するという特定の意図をもって後世創作されるものであるから、事実とはかけ離れた記載が多いことは改めていうまでもない。しかしそこに込められた、系図作成者がもっていた系譜意識は、安藤氏一族の本質を示すものとして重要である。