領内の乳井評価

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乳井の領内での評価は、旧套(きゅうとう)を打破して新法を試みんとした人の常として、毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばした。一方で「音信(いんしん)、贈答、親戚たりとも是を不受、廉直を示しけれハ、倫理絶類の人なり」(『伝類』)といった見方もあれば、他方ではそれは「廉節(れんせつ)」を「飾る」(「津軽藩史」巻四)ポーズにすぎないといった見方もあった。また一方で「才智」長(た)けた人と賛嘆するものがあれば、他方では狡猾な策略家とそしる人もいた。しかしそのことは乳井自身承知の上のことであり、「是等の義ハ勝手次第のこと」(資料近世1No.一〇〇五)と褒貶(ほうへん)を越えたところに彼はいた。彼が思想的信条として最も嫌悪したのは、何事も「無事安穏」(同前)にと、波風を立てずにやりすごす、事なかれ主義的な生き方であった。「毒にもならねば又薬にもならず」(同前)、したがって褒貶すら起こりようのない没主体的な生き方を、彼は武門の生まれとして最も軽蔑した。