中村善時

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田舎館組堂野前村新派(しんはだち)の豪農中村善時(なかむらよしとき)は津軽地方の気候や風土を観察し、津軽地方の農書『耕作噺』を安永五年(一七七六)に著している。ここには老農たちから聞いて学んだことや、自らの体験に根ざした農耕の知恵や技が、「風土」「気候」「農事」「日積」「農具」「田拵」「苗代」「種物」「打起」「畔放」「攪泥」「植付」「草切」「水利」「糞養」「鍛錬」「刈積」「村納」「御収納」「仕附」「人使」「書添」の二三項目にわたって具体的にまとめられている。「土地は虚言を申さずとは古往よりの伝えなり、手抜き骨抜きせし事まで鏡で形を見る如く、作体にあらはし、まったく隠され不申候、此故に田甫を見らるることは恥かしきものに候」という言葉からは、十八歳で家を継いで稲作一筋に生きた彼の農業哲学がうかがえる。中村は宮崎安貞の『農業全書』を参考としつつも、一般論でくくることのできない「其所々の風土」を充分に勘案することを促し、津軽地方では冷害への対応上、気候風土にあった早稲品種の選択を奨励している。

図180.耕作噺
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