本格的な国際スパイ小説家

859 ~ 860 / 965ページ
赤羽堯は、国内でも類をみない国際スパイ小説を数多く世に問うた。昭和十二年(一九三七)、弘前市に生まれる。本名庄司英樹。
 弘前高等学校から明治大学文学部仏文科に進学。三十五年、同大学卒業時に恋人を交通事故で失い、諸外国へ放浪の旅に出る。四十五年(一九七〇)、コロンビア大学に留学し、翌年帰国。一時シャンソン歌手として活動。海外小説の翻訳、週刊誌の記者を経て、『スパイ特急』で作家デビュー。六十一年刊行の長編スパイ小説『脱出のパスポート』が直木賞候補作品となる。海外での豊かな国際経験に裏付けられたスケールの大きいこの作品は高い評価を得た。以後、量産態勢に入り、同年『ソフィアからの密使』『東から来た暗殺者』、六十三年『死を讃え森に潜め』、平成二年『復讐、そして栄光』(上下)などの作品のほか、歴史小説にも挑戦する。『秘本 東方見聞録』(平成三年)、『チンギス・ハーン英雄伝』全三巻(四年)、『流沙伝説』(六年)がその作品群。スケールが大きくミステリアスで、壮大な構想のもとに描かれた長編小説群である。
 さらに、聖書に書かれたイエス・キリストの謎に挑んだ『〈死海文書〉殺人事件』(七年)、そして、世界に多発した奇病を描いた『感染』(八年)と続く。同年には、急速に進む高齢化社会のなかで、老境の夫婦を襲う恐怖とその再生を描いた『砂漠の薔薇』がある。平成九年(一九九七)一月死去。遺作『アレキサンドロス大王征服記』は同年二月に刊行された。著作の単行本は四〇冊を数える。

写真260 赤羽堯