日本協会理事会は昭和35年(1960)6月、ラグビー人気の衰退を打開するために、日本一を決める大会の実現に踏みきった。日本選手権と銘打つことは時期尚早として、第1回NHK杯争奪戦の名のもとに昭和36年(1961)1月29日、秩父宮ラグビー場で社会人代表の八幡製鉄と、大学代表の日本大学が、日本協会に推薦されて戦い、八幡が50−13と大勝した。第2回大会は同志社大学が近畿日本鉄道を17−6で破り、第3回大会では八幡製鉄が25−6で明治大学に勝ちそれぞれ優勝を果たした。
昭和38年度にNHK杯は発展的に改組され、第1回日本選手権大会と銘打ち、社会人2、大学2の4チームでトーナメント大会を行い、昭和39年(1962)3月22日に決勝で同大が近鉄を破った。
第2回から毎年1月15日に、社会人大会の優勝チームと、大学選手権大会の優勝チームが、日本一の座を争う試合として人気を集めることになった。平成22年(2010)度で48回を迎えた日本選手権大会では、歴史に残る名勝負の数々が生まれている。
第1回大会は、花園ラグビー場で、同志社大学が近鉄を18−3で破り初代王者となった。関西対決を制した同志社ファンの喜びは大きかった。石塚広治、坂田好弘らが活躍し、33歳の若きヒーロー岡仁詩監督が喝采を浴びた。
第3回大会は横井久監督、矢部達三主将の早稲田大学が、八幡製鉄を12−9で破り初優勝した。花園へ駆けつけた私は、新人FB山本巌の決勝PGが決まった瞬間、歓喜して両腕を突き上げた若き日が忘れられない。早大はセブンFWで戦い、セブンエース藤本(蒲原)忠正が活躍し、話題を集めた。
第8回大会は、私が監督、大東和美主将の早大が、新日鉄釜石に30−16と快勝。翌第9回大会には早大が白井善三郎監督、益田清主将のもと、CTB佐藤秀幸のパントがワンバウンドですっぽりとWTB堀口孝の手中に収まり、右コーナーに飛び込んだ。その劇的な逆転勝利の瞬間は、いまも脳裏に刻み込まれている。
第13回大会までは、早稲田大学が3回、同志社大学、日本体育大学、明治大学が各1回優勝し、近鉄3回、リコー2回、八幡製鉄、トヨタ各1回優勝と、学生と社会人がほとんど互角の戦いを見せていた。そのすべての試合は名勝負として語り継がれ、ラグビーの歴史を築き上げてきたのである。
第14回、第15回大会で、早大が12−27で新日鉄釜石に、明大が10−20とトヨタに、健闘むなしく敗れたあと、第16回から第22回大会まで、新日鉄釜石が7連覇を果たした。
小藪修、森重隆、松尾雄治が選手・監督としてチームを率い、石山次郎、洞口孝治、千田美智仁、谷藤尚之ら、鉄人たちの活躍で釜石時代を作り上げた。大漁旗が打ち振られ、国立競技場に釜石の真紅のジャージィが躍動する釜石7連覇の数々の名場面は、別項の観戦記で楽しんでいただきたい。この時代に、同大が4度釜石にチャレンジして健闘したが、3−10、8−21、10−35、17−31で退けられた。
第23回大会には、上田昭夫監督、中野忠幸主将の慶応大学がトヨタを18−13で破り、学生に10年ぶりの勝利をもたらして新風を吹き込んだ。第24回大会はトヨタが大東文化大学を26−6で下し、2回目の優勝を遂げた。
第25回大会には早大が東芝府中を22−16で破り、木本建治監督、永田隆憲主将が宙に舞い、ラグビーの人気はいやがうえにも盛り上がった。ここまでが、大学が社会人に食い下がってきた時期である。
第26回から第32回大会まで、神戸製鋼が黄金時代を迎え、釜石の7連覇の偉業に並んだ。林敏之、大八木淳史、平尾誠二の同大トリオがリードした神鋼の全盛期である。
第25回大会までの試合では、総得失点は社会人317点(1試合平均21.1)対、大学231点(1試合平均15.4)、その差わずかに1試合平均6.3であった。この大会が盛り上がったことも当然の結果といえる。それが神戸製鋼全盛期には、その得失点差は神戸製鋼352点(1試合平均50.3)対、大学84点(1試合平均12点)となってしまった[下表の決勝戦戦績参照]。神戸製鋼の強さが特別だったのか、大学のレベルが落ちたのか。第32回大会で神戸製鋼が大東大から102点を取り、88点差で勝ったことが引き金となって、第35回大会から社会人チームと大学の優勝チームが覇を争う形式から、大学が社会人にチャレンジする現在のトーナメント方式に変更された。
その後は平成8年(1996)度の第34回大会を最後に、決勝戦では実力のある社会人同士の対戦となっている。
平成15年(2003)度トップリーグ発足以降も、東芝ブレイブルーパス、三洋電機ワイルドナイツ、サントリーサンゴリアスら、強豪チームの対戦を軸に、新しい感動のドラマを生んでいる。
大敗続きだった大学チームも早大、関東学大、帝京大などが確実に力をつけてきて、トップリーグの下位チームと競り合うようになってきたことは心強い。
大学チームを格上の社会人チームと対戦させるのはかわいそうだとの声も聞くが、自分たちより強い相手があれば戦ってみたいと思うのが、スポーツマンの心情であろう。
平成16年(2004)2月12日、第43回日本選手権大会準々決勝で、清宮克幸監督、佐々木隆道主将率いる早大が、社会人の雄、トヨタ自動車ヴェルブリッツを28−24で破った衝撃の試合があった。大学がトップリーグの一角を崩す日の再現を楽しみに、またトップリーグ同士が力を出し尽くす大勝負を期待して、この大会を見守っていきたい。
日本のラグビー界において、日本選手権の果たしてきた役割は大きい。選手たちには、これからもファンに感動を与える試合を見せてほしいと願い、日本選手権大会のますますの発展を祈っている。
NHK杯(3回)、日本選手権大会(58回) | ||
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優勝チームおよび優勝回数 | ||
1 | 神戸製鋼 | 10回 |
(引き分け優勝1を含む) | ||
2 | 新日鉄釜石 | 8回 |
2 | サントリーサンゴリアス | 8回 |
(引き分け優勝1を含む) | ||
4 | 東芝ブレイブルーパス | 6回 |
(引き分け優勝1を含む) | ||
5 | パナソニックワイルドナイツ | 6回 |
(三洋電機時代の優勝回数3回を含む) | ||
6 | 早稲田大学 | 4回 |
7 | 八幡製鉄 | 3回 |
7 | 近畿日本鉄道 | 3回 |
7 | トヨタ自動車 | 3回 |
7 | NECグリーンロケッツ | 3回 |
(引き分け優勝1を含む) | ||
11 | 同志社大学 | 2回 |
11 | リコー | 2回 |
13 | 日本体育大学 | 1回 |
13 | 明治大学 | 1回 |
13 | 慶応大学 | 1回 |
13 | ヤマハ | 1回 |
回数 | 年月日 | 優勝チーム | スコア | 準優勝チーム | グラウンド | レフリー |
【NHK杯】 | ||||||
第1回 | 昭和36年(1961)1.29 | ○八幡製鉄 | 50−13 | ●日本大学 | 秩父宮ラグビー場 | 川田大介 |
第2回 | 昭和37年(1962)3.4 | ○同志社大学 | 17−6 | ●近畿日本鉄道 | 秩父宮ラグビー場 | 池田正徳 |
第3回 | 昭和38年(1963)3.3 | ○八幡製鉄 | 25−6 | ●明治大学 | 秩父宮ラグビー場 | 江田昌佑 |
【日本選手権】 | ||||||
第1回 | 昭和39年(1964)3.22 | ○同志社大学 | 18−3 | ●近畿日本鉄道 | 花園ラグビー場 | 宮崎俊行 |
第2回 | 昭和40年(1965)1.15 | ○八幡製鉄 | 15−6 | ●法政大学 | 秩父宮ラグビー場 | 西山常夫 |
第3回 | 昭和41年(1966)1.15 | ○早稲田大学 | 12−9 | ●八幡製鉄 | 花園ラグビー場 | 丹羽 正 |
第4回 | 昭和42年(1967)1.15 | ○近畿日本鉄道 | 27−11 | ●早稲田大学 | 秩父宮ラグビー場 | 江田昌佑 |
第5回 | 昭和43年(1968)1.15 | ○近畿日本鉄道 | 27−14 | ●法政大学 | 秩父宮ラグビー場 | 西山常夫 |
第6回 | 昭和44年(1969)1.15 | ○トヨタ自工 | 44−16 | ●慶応大学 | 花園ラグビー場 | 牧弥太郎 |
第7回 | 昭和45年(1970)1.15 | ○日本体育大学 | 29−13 | ●富士鉄釜石 | 秩父宮ラグビー場 | 西山常夫 |
第8回 | 昭和46年(1971)1.15 | ○早稲田大学 | 30−16 | ●新日鉄釜石 | 秩父宮ラグビー場 | 堤(龍野)和久 |
第9回 | 昭和47年(1972)1.15 | ○早稲田大学 | 14−11 | ●三菱自工京都 | 秩父宮ラグビー場 | 池田正徳 |
第10回 | 昭和48年(1973)1.15 | ○リコー | 35−9 | ●明治大学 | 秩父宮ラグビー場 | 牧弥太郎 |
第11回 | 昭和49年(1974)1.15 | ○リコー | 25−3 | ●早稲田大学 | 花園ラグビー場 | 野々村博 |
第12回 | 昭和50年(1975)1.15 | ○近畿日本鉄道 | 33−13 | ●早稲田大学 | 国立競技場 | 池田正徳 |
第13回 | 昭和51年(1976)1.15 | ○明治大学 | 37−12 | ●三菱自工京都 | 国立競技場 | 野々村博 |
第14回 | 昭和52年(1977)1.15 | ○新日鉄釜石 | 27−12 | ●早稲田大学 | 国立競技場 | 町井徹郎 |
第15回 | 昭和53年(1978)1.15 | ○トヨタ自工 | 20−10 | ●明治大学 | 国立競技場 | 野々村博 |
第16回 | 昭和54年(1979)1.15 | ○新日鉄釜石 | 24−0 | ●日本体育大学 | 国立競技場 | 野々村博 |
第17回 | 昭和55年(1980)1.15 | ○新日鉄釜石 | 32−6 | ●明治大学 | 国立競技場 | 野々村博 |
第18回 | 昭和56年(1981)1.15 | ○新日鉄釜石 | 10−3 | ●同志社大学 | 国立競技場 | 野々村博 |
第19回 | 昭和57年(1982)1.15 | ○新日鉄釜石 | 30−14 | ●明治大学 | 国立競技場 | 真下 昇 |
第20回 | 昭和58年(1983)1.15 | ○新日鉄釜石 | 21−8 | ●同志社大学 | 国立競技場 | 八木宏器 |
第21回 | 昭和59年(1984)1.15 | ○新日鉄釜石 | 35−10 | ●同志社大学 | 国立競技場 | 真下 昇 |
第22回 | 昭和60年(1985)1.15 | ○新日鉄釜石 | 31−17 | ●同志社大学 | 国立競技場 | 八木宏器 |
第23回 | 昭和61年(1986)1.15 | ○慶応大学 | 18−13 | ●トヨタ自動車 | 国立競技場 | マイケル・ファンワース |
第24回 | 昭和62年(1987)1.15 | ○トヨタ自動車 | 26−6 | ●大東文化大学 | 国立競技場 | 真下 昇 |
第25回 | 昭和63年(1988)1.15 | ○早稲田大学 | 22−16 | ●東芝府中 | 国立競技場 | 八木宏器 |
第26回 | 平成1年(1989)1.15 | ○神戸製鋼 | 46−17 | ●大東文化大学 | 国立競技場 | 八木宏器 |
第27回 | 平成2年(1990)1.15 | ○神戸製鋼 | 58−4 | ●早稲田大学 | 国立競技場 | 八木宏器 |
第28回 | 平成3年(1991)1.15 | ○神戸製鋼 | 38−15 | ●明治大学 | 国立競技場 | 斉藤直樹 |
第29回 | 平成4年(1992)1.15 | ○神戸製鋼 | 34−12 | ●明治大学 | 国立競技場 | 斉藤直樹 |
第30回 | 平成5年(1993)1.15 | ○神戸製鋼 | 41−3 | ●法政大学 | 国立競技場 | 斉藤直樹 |
第31回 | 平成6年(1994)1.15 | ○神戸製鋼 | 33−19 | ●明治大学 | 国立競技場 | 斉藤直樹 |
第32回 | 平成7年(1995)1.15 | ○神戸製鋼 | 102−14 | ●大東文化大学 | 国立競技場 | 阿世賀敏幸 |
第33回 | 平成8年(1996)2.25 | ○サントリー | 49−24 | ●明治大学 | 国立競技場 | 市川昭夫 |
第34回 | 平成9年(1997)2.11 | ○東芝府中 | 69−8 | ●明治大学 | 国立競技場 | 岩下眞一 |
第35回 | 平成10年(1998)2.1 | ○東芝府中 | 35−11 | ●トヨタ自動車 | 国立競技場 | 岩下眞一 |
第36回 | 平成11年(1999)2.28 | ○東芝府中 | 24−13 | ●神戸製鋼 | 国立競技場 | 岩下眞一 |
第37回 | 平成12年(2000)2.27 | ○神戸製鋼 | 49−20 | ●トヨタ自動車 | 国立競技場 | 岩下眞一 |
第38回 | 平成13年(2001)2.25 | △神戸製鋼 | 27−27 | △サントリー | 国立競技場 | 下井真介 |
(双方優勝) | ||||||
第39回 | 平成14年(2002)2.3 | ○サントリー | 28−17 | ●神戸製鋼 | 秩父宮ラグビー場 | 岩下眞一 |
第40回 | 平成15年(2003)2.23 | ○NEC | 36−26 | ●サントリー | 国立競技場 | 下井真介 |
第41回 | 平成16年(2004)3.21 | ○東芝府中ブレイブルーパス | 22−10 | ●神戸製鋼コベルコスティーラーズ | 国立競技場 | 岩下眞一 |
第42回 | 平成17年(2005)2.27 | ○NECグリーンロケッツ | 17−13 | ●トヨタ自動車ヴェルブリッツ | 秩父宮ラグビー場 | 下井真介 |
第43回 | 平成18年(2006)2.26 | △NECグリーンロケッツ | 6−6 | △東芝府中ブレイブルーパス | 秩父宮ラグビー場 | 相田真治 |
(双方優勝) | ||||||
第44回 | 平成19年(2007)2.25 | ○東芝ブレイブルーパス | 19−10 | ●トヨタ自動車ヴェルブリッツ | 秩父宮ラグビー場 | 相田真治 |
第45回 | 平成20年(2008)3.16 | ○三洋電機ワイルドナイツ | 40−18 | ●サントリーサンゴリアス | 秩父宮ラグビー場 | 相田真治 |
第46回 | 平成21年(2009)2.28 | ○三洋電機ワイルドナイツ | 24−16 | ●サントリーサンゴリアス | 秩父宮ラグビー場 | 下井真介 |
第47回 | 平成22年(2010)2.28 | ○三洋電機ワイルドナイツ | 22−17 | ●トヨタ自動車ヴェルブリッツ | 秩父宮ラグビー場 | 相田真治 |
第48回 | 平成23年(2011)2.27 | ○サントリーサンゴリアス | 37−20 | ●三洋電機ワイルドナイツ | 秩父宮ラグビー場 | 相田真治 |
第49回 | 平成24年(2012)3.18 | ○サントリーサンゴリアス | 21−9 | ●三洋電機ワイルドナイツ | 国立競技場 | 平林泰三 |
第50回 | 平成25年(2013)2.24 | ○サントリーサンゴリアス | 36−20 | ●神戸製鋼コベルコスティーラーズ | 国立競技場 | 麻生彰久 |
第51回 | 平成26年(2014)3.9 | ○パナソニック | 30-21 | ●東芝ブレイブルーパス | 国立競技場 | 麻生彰久 |
第52回 | 平成27年(2015)2.28 | ○ヤマハ発動機ジュビロ | 15-3 | ●サントリーサンゴリアス | 秩父宮ラグビー場 | 麻生彰久 |
第53回 | 平成28年(2016)1.31 | ○パナソニックワイルドナイツ | 49-15 | ●帝京大学 | 秩父宮ラグビー場 | 戸田京介 |
第54回 | 平成29年(2017)1.29 | ○サントリーサンゴリアス | 15-10 | ●パナソニックワイルドナイツ | 秩父宮ラグビー場 | 大槻卓 |
第55回 | 平成30年(2018)1.13 | ○サントリーサンゴリアス | 12-8 | ●パナソニックワイルドナイツ | 秩父宮ラグビー場 | 麻生彰久 |
第56回 | 平成30年(2018)12.15 | ○神戸製鋼コベルコスティーラーズ | 55-5 | ●サントリーサンゴリアス | 秩父宮ラグビー場 | 久保修平 |
第57回 | 令和2年(2020) | 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中止 | ||||
第58回 | 令和3年(2021)5.23 | ○パナソニックワイルドナイツ | 31-26 | ●サントリーサンゴリアス | 秩父宮ラグビー場 | 麻生彰久 |