テストNo.318 第8回ワールドカップ 第1戦 南アフリカ代表戦

平成27年(2015)9月19日 G:ブライトン R:ジェローム・ガルセス(FRA)

日本代表 34-32 南アフリカ代表●

No.557★318 第8回ワールドカップ2015 イングランド大会 第1戦 南アフリカ代表戦
2015年9月19日 G:ブライトン R:ジェローム・ガルセス(FRA)
日本代表 34 32 南アフリカ
1 三上 正貴(東芝) 10 12 1 テンダイ・ムタワリラ
2 堀江 翔太(パナソニック) 24 20 2 ビスマルク・デュプレッシー
3 畠山 健介(サントリー) 3 ヤニー・デュプレッシー
4 トンプソン ルーク(近鉄) 1 T 2 4 ルーダヴェイク・デヤハー
5 大野  均(東芝) 1 G 1 5 ヴィクター・マットフィールド
C6 リーチ マイケル(東芝) 1 PG 0 6 フランソワ・ロー
7 マイケル・ブロードハースト(リコー) 0 DG 0 7 ピーター=ステフ・デュトイ
8 ツイ ヘンドリック(サントリー) 8 スカルク・バーガー
9 田中 史朗(パナソニック) 2 T 2 9 ルアン・ピナール
10 小野 晃征(サントリー) 1 G 2 10 パトリック・ランビー
11 松島 幸太朗(サントリー) 4 PG 2 11 ルワジ・ンヴォヴォ
12 立川 理道(クボタ) 0 DG 0 C12 ジャン・デヴィリアーズ
13 マレ・サウ(ヤマハ) 13 ジェシー・クリエル
14 山田 章仁(パナソニック) 8 13 14 ブライアン・ハバナ
15 五郎丸 歩(ヤマハ) 15 ザイン・カーシュナー
交代【日】アマナキ・レレィ・マフィ(NTTコム)⑧、山下裕史(神鋼)③、真壁伸弥(サントリー)⑤、稲垣啓太(パナソニック)①、日和佐篤(サントリー)⑨、木津武士(神鋼)②、田村優(NEC)⑩、カーン・ヘスケス(宗像サニックス)⑭ 【南】アドリアーン・ストラウス②、トレヴァー・ニャカニ①、コーニー・ウーストハイゼン③、シヤ・コリシ⑦、フーリー・デュプレア⑨、ハンドレ・ポラード⑩、エベン・エツベス④、JP・ピーターセン⑪  シンビン=ウーストハイゼン(南)
得点:Tリーチ、五郎丸、ヘスケス、G五郎丸2、PG五郎丸5

 2012年から日本代表を率いたエディー・ジョーンズヘッドコーチは、何度も言ってきた。「我々の目標はベスト8になって決勝トーナメントに進出すること、大会でもっとも印象に残るチームになることです」。日本代表は、その言葉通りのことをやってのけた。

 プール戦(一次リーグ)の初戦は、9月19日、イングランド南西部の街ブライトンでの南アフリカ戦だった。普段はサッカーで使用されるこのスタジアムで、日本代表は、「ラグビージャイアント」とまで称される強豪国に食らいついた。

 午後4時45分、試合は南アのキックオフで始まる。自陣深くまで攻め込まれたが、SO小野晃征が低くタックルし、CTBマレ・サウが上体を抱えて倒す「ダブルタックル」でボールを奪う。この日の日本はこのダブルタックルを何度も決め、パワフルな選手が揃う南アからボールを奪った。

 ジョーンズHC体制になってからは、自陣からでもボールをつなぐアタッキングラグビーを志向してきたが、この日は、自陣からはFB五郎丸歩がロングキックを蹴り込み、低いタックルでボールを奪い返した。イメージとは違う日本の動きに、南アの選手に動揺がみてとれた。対する日本代表はタックルした選手がすぐに起きあがり、二番手の選手がボールを奪うか、次に備えるかの判断も的確だった。

 スクラムでは、ダイレクトフッキングを使ってボールを素早くBKラインに展開し、ラインアウトの精度も高く、マイボールを確実にキープして攻めることができた。五郎丸のPGで先制したものの、南アにモールによるトライを許し、迎えた前半29分、日本は南ア陣ゴール前のラインアウトを得ると、モールを組み、小野晃征、立川理道、松島幸太朗らのBK陣が勢いよく参加し、リーチがトライ。10-7と逆転に成功する。

 その後はシーソーゲーム。前半32分、南アはHOビスマルク・デュプレッシーがトライして、10-12と逆転。後半2分、日本も五郎丸がPGを決め13-12とひっくり返す。その直後、南アはLOデヤーヘルのトライで13-19とするが、日本も五郎丸の2つのPGで追いすがる。16分、南アSOランビー、19分、五郎丸がそれぞれPGを決めて19-19。

 このあたりから、会場の雰囲気がざわつき始める。ラグビーワールドカップ(RWC)で過去2度優勝し、オールブラックスとしのぎを削ってきた南アと、いまだRWCで1勝しかあげていない日本が接戦を繰り広げている。しかも、日本の戦いは堂々たるものだった。体格差をものともせず、果敢にタックルし、ボールを奪い、ミスなく攻め続ける。次第に日本をサポートする観客が増え始めた。

 21分、南アHOストラウスが日本のディフェンスを縦突進で弾き飛ばしてトライ。「ここまでか」、誰もが思ったが、その直後、日本は相手陣ラインアウトからのサインプレーで五郎丸がインゴールに滑り込む。客席が総立ちになるなかで、五郎丸が難しいゴールも決めて、29-29の同点となる。

 その後は南アが攻勢に出たが、日本が懸命に守り、32分、ゴール前でPKを得た南アがPGを狙う。この判断が日本を生き返らせた。「焦っていると思った」(リーチ マイケルキャプテン)。残り時間は日本が圧倒的にボールを支配して攻め続ける。3年半のハードワークで、日本代表選手は80分間走り続けるフィットネスを身に着けていたのだ。

 試合終了間際、日本は南ア・ゴール前左中間でPKを得る。スコアは、29-32。多くのチームが3点を確実にとって引き分けに持ち込み、勝ち点を得ようとする場面である。南アフリカと引き分けるだけでも歴史的なことなのだ。しかし、日本は迷わずスクラムを選択し、勝負に出た。

 この勇敢な判断に、スタジアムは沸き返った。「カモーン! ジャパーン!」の声援が飛ぶ。組み直しのあと、日本はリーチ、マイケル・ブロードハースト、交代出場の真壁伸弥らが突進しながらディフェンスを揺さぶり、右端のラックから左に折り返す。

 SH日和佐篤からCTB立川理道、そしてロングパスがNO8アマナキ・レレィ・マフィにわたる。マフィは南アのCTBデヴィリアスをハンドオフで突き放しながら、左端にいたWTBカーン・ヘスケスにパス。ヘスケスはボールを大切に抱え、南アWTBピーターセンのタックルを受けながら左コーナーぎりぎりに滑り込んだ。

 雄叫び、ガッツポーズ。走り寄るチームメイト。総立ちの大観衆。歴史が動いた瞬間だった。「日本ラグビーの歴史を変えたい」。そう言い続けた選手たちが成し遂げた勝利は、世界中にニュースとして伝えられ、一夜にして日本代表は世界のヒーローになった。

 信じがたい結末に、翌日のイングランド各紙には、「ラグビー史上最大の番狂わせ」、「スポーツ史上最大のショック」など驚きの見出しが躍っていた。