解題・説明
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仏教の悟りに至る段階を十枚の絵で説いた、中国宋代の禅籍『十牛図』の中の「尋牛」を題材にして制作された。老人がいなくなった飼い牛を探して山に入り、苦労の末に牛を発見して、最後はその背中に乗って帰ってくるというストーリーの冒頭の場面である。田中はこの作品の老人に、理想の表現を探究し続ける自身の姿を重ねたものと考えられている。 美術界の指導者で、田中が生涯を通じて尊敬の念を抱いていた岡倉天心が、1913(大正2)年の日本彫刻会第5回展に出品されたこの作品を見て、「フランスの若い彫刻家にもぜひ見せたい」と絶賛したと伝えられる。
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