武家諸法度〈大橋殿真筆〉 釈文

武家諸法度〈大橋殿真筆〉  [目録]
 
ぶけしよはつと
武家諸法度                                    [原本へ]
 
  ぶんふきうばのミちもつはらあいたしなむべきこと
一 文武弓馬之道専ら相嗜む可き事
  さぶんうぶいにしへのはうなり
  左文右武(ぶんをひだりにしぶをミぎにす)古之法也
  けんひせすんバあるべからず
  兼備せ不んバある可から不矣                          [原本へ]
  きうばハこれふけのようすうなり
  弓馬ハ是武家之要樞也
  へいをなづけてけうきとす
  兵を號けて凶器と為
  やむことをゑずしてこれをもちゆ
  已を得不し而之を用ゆ
  ぢバうらんせざれなんぞしゆれんをはげまさざらんや
  治忘乱せ不れ何ぞ修錬を勵さ不らん乎
 
  だいミやうしやうミやうざいゑどけうたいあいさだむるところなり
一 大名小名在江戸交替相定る所也
  まいとしなつしぐわつぢうさんきんをいたすべし
  毎歳夏四月中参勤を致す可し
  じうしやのゐんじゆきんらいはなはだおゝし
  従者之員數近来甚だ多し                            [原本へ]
  かつこくぐんのついゑかつにんミんのつかれなり
  且國郡之費且人民之労也
  きやうかうそのさうをうをもつてこれをげんしやうすべし
  向後其相應を以て之を減少す可し
  たゞししやうらくのせつハけうれうにまかせくやくハぶんげんにしたがふべきこと
  但上洛之節者教令に任せ公役者分限に随ふ可き事
 
  しんぎのじやうくハくゑいけんをかまゆることこれをきんじす
一 新義之城槨営堅を構ゆること之を禁止す
  きよじやうのくハうるいいしかべいげはいゑのときぶぎやうしよにたつしそのむねをうくべきなり
  居城之隍塁石壁以下敗壊之時奉行所に達し其旨を受く可き也            [原本へ]
  やぐらへいもんとうのぶんハせんきのごとくしゆほすべきこと
  櫓塀門等之分者先規の如く修補す可き事
 
  ゑどならびにいづくにおゐてけりやうなにへんのことこれありといふとも
一 江戸并何国於て假令(たとひ)何篇之事之有と雖も
  さいこくのともがらハそのところをまもりげちをあいまつべきこと
  在国之輩者其處を守り下知を相待つ可き事
 
  いづれのところにおゐてけいばつをおこなふといふともやくしやのほかいでむかふべからず
一 何れの處に於而刑罰を行ふと雖も役者之外出向ふ可ら不              [原本へ]
  たゞしけんしのさうにまかすべきこと
  但検使之左右に任す可き事
 
  しんぎをくハたてとたうをけつしせいやくをなすのぎせいきんのこと
一 新義を企て徒黨を結し誓約を成す之義制禁之事
 
  しよこくしゆならびにりやうしゆとうわたくしのじやうろんをいたすべからす
一 諸国主并領主等私之諍論を致す可から不
  へいじつすべからくきんしんをくわふべきなり
  平日須く謹慎を加ふ(べき)也                          [原本へ]
  もしちたいにおよぶべきのぎあらバぶぎやうしよにたつしそのむねをうくべきこと
  若遅滞に及ぶ可き之儀有ら者奉行所に達し其旨を受く可き事
 
  こくしゆじやうしゆいちまんごくいじやうならびにきんじうのものがしらハ
一 國主城主壱万石以上并近習之物頭者
  わたくしにこんいんをむすぶべからざること
  私に婚姻を結ぶ可から不る事
 
  いんしんをくりものならびにかしゆぎしき
一 音信贈並に嫁娶儀式
  あるひハきやうをうあるひハかたくゑいさくとう
  或ハ饗應或ハ家宅営作等                            [原本へ]
  たうじはなはだびれいにいたる
  當時甚だ美麗に至る
  じこんいごかんりやくたるべし
  自今以後簡畧為る可し
  そのほかばんじけんやくをもちゆべきこと
  其外万事倹約を用ゆ可き事
 
  いしやうのしなこんらんすべからず
一 衣裳之科混乱す可から不
  しらあやくぎやういじやうしろこそでしよだいぶいじやうちやうし
  白綾公卿以上白小袖諸大夫已上聴之
  むらさきあハせむらさきうらねりむもんのこそでみだりにこれをちやくすべからず
  紫袷紫裏練無紋之小袖猥に之を着す可から不                   [原本へ]
  しょかちうにいたつてらうじうしよそつりやうらきんしうのしよくふくこハうにあらず
  諸家中尓至て郎従諸卒綾羅錦綉之飾服古法に非ず
  せいきんせしむること
  制禁せ令むる事
 
  ぜうよハ  もんのれき
一 乗輿者一門之歴々
  こくしゆじやうしゆ  まんごくいしやう
  國主城主一万石以上
  ならびにくにだいミやうのそくじやうしゆおよびじじういじやうのちやくし
  并に国大名之息城主曁び侍従以上之嫡子
  あるひハとしごじういじやう
  或ハ年五十已上                                [原本へ]
  あるひハいゐんのりやうだうびやうにんこれをゆるす
  或ハ醫陰之両道病人之を免す
  そのほからんすいをきんず
  其外濫吹を禁ず
  たゞしめんきよのともがらハかくべつなり
  但し免許之輩者各別也
  しよかちうにいたつてハそのくにゝおゐてそのひとをゑらびこれをのすべし
  于諸家中に至て者其国に於て其人を撰び之を載す可し
  くげもんぜきしよしゆつせいのしうハせいぐわいのこと
  公家門跡諸出世之衆者制外之事
 
  ほんしゆのさゝハりこれあるものあいかゝゆべからず
一 本主之障り之有る者相拘ゆ可から不                       [原本へ]
  もしほんぎやくせつがいにんのつげあらバこれをかへすべし
  若叛逆殺害人之告げ有ら者之を返す可し
  きやうはいのやからハあるひハこれをかへしあるひハおいいだすべきのこと
  向背之族者或ハ之を返し或ハ追い出す可き之事
 
  はいしんしちにんしよこんのものついはうしけいにおよぶべきときハじやういをうかゞふべし
一 陪臣質人所獻之者追放死刑に及ぶ可き時者上意を伺ふ可し
  もしたうざにおゐてのがれがたきぎあつてざんりくのものそのしさいごんじやうすべきこと
  若當座に於て遁れ難き義有而斬戮之者其子細言上す可き事             [原本へ]
 
  ちぎやうしよむせいれんさたのひはうをいたさず
一 知行所務清廉沙汰之非法を致さ不
  こくぐんすいへいせしむべからざること
  國郡衰弊せ令む可から不る事
 
  だうろゑきばしうりやうとうだんせつなくわうくハんのていたいをいたせしむべからすこと
一 道路驛馬舟梁等断絶無く往還之停滞を致せ令む可から不事
 
  わたくしのせきしよしんはうのしんりうせいきんのこと
一 私之関所新法之津留制禁之事                          [原本へ]
 
  ごひやくこくいじやうのふねてうじのこと
一 五百石以上之舩停止の事
 
  しよこくにさんざいすじしやりやう
一 諸国に散在す寺社領
  いにしへよりいまにいたつてつけきたるところハきやうこうとりはなつべからざること
  古自り今に至つて附け来る所者向後取り放つ可から不る事
 
  ばんしゑどのはつとのごとくくに/\しよ/\におゐてこれをじゆんぎやうすべきこと
一 萬事江戸之法度の如く国々所々に於て之を遵行す可き事
 
□…□けせんせいのむねに□…□こんどじゆんしよくしてこれをさだめおハんぬ
右條々當家先制之旨に准し今度潤色し而之を定め訖                  [原本へ]
かたくあいまもるべきものなり
堅く相守る可き者也
 
くわんゑい
寛永十二年六月廿一日
 
右大橋殿真筆令開板者也
 
 寛文八戊申年八月吉日
 
左兵衞板行