加藤周一の代表作のひとつは『日本文学史序説』である。十数年を費やして執筆の準備を重ねたが、その過程で採られたのが日本文学史関連ノートである。ノートはわら半紙やルーズリーフに綴られ、加藤自身によって表題がつけられ、ファイルされている。同一ファイルに収められるノートの書かれた時期を確定するのは困難である。「〔日本文学史(古代)〕」とか「〔日本文学史(平安)〕」といったように、時代ごとにファイルされたものもあれば「富永仲基」「鷗外・茂吉・杢太郎」といったように、人物ごとにファイルされたものもある。それぞれのノートが『日本文学史序説』や日本文学関連著作の叙述にどのような形で活かされているかを確認することができ、加藤文学史の特徴が浮かび上がる。