齋藤茂吉に関するノートで、採られた時期は1990年代初めだろう。そのように考える理由は、使用されているルーズリーフが新しいものと判断できること。もうひとつは本ノートを基にした論考が1993年に刊行された「齋藤茂吉の世界」(『近代の詩人3』潮出版社)であることである。論考の主題は、齋藤茂吉の短歌の全体的理解である。一方で柿本人麻呂などのすぐれた研究、自らが詠んだ斬新で画期的な短歌表現、もう一方での社会現象に対する稚拙な理解が、ひとりの詩人のなかで、どのように成立していたかを分析するものであった。その全体的理解のために採られたノートはかなりの分量に達する。末尾には出版社にファックスで送った原稿(非デジタル化)の一部が残されている。