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目録ID ku004029
タイトル. 版. 巻次 蝋の顔
タイトル. 版. 巻次(カナ)
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花溢れゐき
蝋の顔
握力の不意にゆるみてめざめつつ印度林檎の匂ふ枕べ
石鹸を泡だててゐて蹼のあとのある手をふとかなしめり
ゆきずりの一人となして離りたり木の葉のごときわれと思ふや
滅多には潰れぬと人に言ひて来て言ひし言葉に励まされゆく
切り札を持ちて歩めるわれならず川の匂ひのこよひは著し
勤め先分れて幾日道に会へば人はわれより濃き思ひ持つ
半円をゑがきて低く飛べる蛾のふたたび道におりてしづまる
目のしきり乾くと思ひ立ちあがりいたくぬくめる空気に触れつ
赤き緒を垂るる喇叭のいづこにもあらずふたたび眠りゆきたり
アドバルン上げ終へし人ら降りて来て互みに風のつめたきを言ふ
礼深く人の出で入る病室にリボンフラワーの赤なまなまし
大銀杏廻りて帰るどこまでも歩きゆきたき犬を諭して
階段を半ばのぼりて気づきたり今朝は左の膝の痛まず
ひきだしをかきまはしゐて思はざるときに香に立つ匂ひ袋は
耳打ちをされたる少女何問ふとまつすぐわれを見つつ近づく
思はざるゆとりの出でて物言ひのはげしき人を見てゐる日あり
押すこともあらず押されて歩む身をわれと笑ひて改札を出づ
怒ること少なきわれか帰り来てレモンの輪切りに砂糖を浴びす
麻痺の去りし指先触れて確かむる芥子のつぼみの持てる弾力
水使ふとき疼く指を妹の気にしてゐしがしばらく言はず
用向きのはかりかねつつ不意に来し人の細身の草履を揃ふ
日だまりに風ぐるま売る前過ぎて春となる日をたれよりも待つ
人の立つ塊りをきはどくよけながらホームに水の撒かれてゆきぬ
うとましく振舞ふことの身につくやマリオネットは蠟の顔持つ
妹の赤き傘よりたたみゐてリンスの匂ひまとふてのひら
みづからを守らむのみに日をかけて越え得し思ひ人に知られず
肘痛むときに思へりスヰフトは予言してつひに人を死なしめき
屋上にしづまりゐたる旗一枚不意によぢれて降ろされゆけり
貝合はせの貝もウインドウに見えずなりわがたのしみの一つ失ふ