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目録ID ku005002
タイトル. 版. 巻次 風のやうに
タイトル. 版. 巻次(カナ)
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雲の地図
風のやうに
ちぎれさうになりつつ旗が吹かれをり厚きガラスをわれはめぐらす
盛りあげて活けゆく花に目の前をしばしなりとも塞がれてゐよ
てのひらをかさぬるごとき落ち葉かとみづからの手の位置を意識す
いつのまに小さき蜂の数増して石蕗の花のめぐり賑はふ
口数の少なく過ぎし日と思ふ草のもみぢに道の明るむ
麻酔切るる時々刻々に身の痛みを超え得し神とわれは思はず
つらなめて輝ける把手風のやうに開きていざなふドアなどあるな
円柱は何れも太く妹をしばしばわれの視野から奪ふ
帰らざるわれの子犬は夕焼けの真下の原を駆けゐむころか
少女らの語れる町の名の幾つ雪降れりとふ母のふるさと
手首より襟回りよりほどかれて混沌と積もるまだらの毛糸
底深く羊歯の匂ひの溜まりゐむ井戸を思ひてをれば眠りぬ
一息にわが描く薔薇は花びらのない真つ黒な色のかたまり
巻き貝の芯まで今朝は明るむと思へることもながく続かず
航跡雲あとかたもなく消えてをり思ひかくまで澄む日のありや
朝より落ち葉しやまぬ銀杏の木事務室に見て風あるも知る
手に余るまで拾ひ来し樫の実をまた一つづつ地上へ返す
人知れぬ賭けの如きか地に落ちし柘榴は割れてかたち崩しぬ
曇りのまま日の傾きて川下の椎の木立の遠き翳りよ
青胡桃握りてをれば生涯のたつた一つの獲物ならずや
わが庭の胡蝶花に似てゐむ花びらの欠けたるままに点くシャンデリア
日の暮れに連れ出づる犬の在らぬこと思ひてをれば妹の言ふ
音立てず漂ひゐしが尾の鰭の懈き感じのままに目ざめつ
似顔めく人間ばかり見たる日かまばたきて一つ一つと消さむ
芝庭の陶のスツール秋深むゆふべゆふべの雨に打たるる