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目録ID ku005014
タイトル. 版. 巻次 しのぎて在りて
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雲の地図
しのぎて在りて
唐草の銀のフォークを添ふるともエクレア一つ食む人ならず
僥倖をたのむ思ひに日々ありき落ち葉降る日は落ち葉掃きつつ
狼煙あがる空はいづこかわざはひは怖るる者にのみ来るといふ
今はもう聞かれずなりぬ問ひ詰めて臓腑ゆすぶるごとき言葉も
残されて草抜くこともあへなきに植ゑおかれたるサルビアは咲く
降りやまぬ雨を見てゐる今のわれは水漬きて立たぬ草の如きか
印捺してめぐりさわだつ思ひせり一つ一つとわれを去りゆく
遅れゐるバスを待ちつつ悲しみは不意に怒りのやうに噴き上ぐ
うす雲に大き虹なす月の暈地上は雨の香を残しゐて
降り来り餌をついばみて土にゐる雀にも及ばず死にたるものは
何からの予告なりしや白き紙を折りつづけゐつ幾夜の夢に
赤鉛筆を削るかたはらもう二度とわが名を呼ばぬ人の横たふ
ひとときののちの心を押し鎮め机に向ふわれは阿修羅か
朝明けて白布に顔をおほひやり今いつさいをわれは失ふ
してやらむこと何もなく名を呼びて水を替へたる花籠を置く
かかる日のあると思はず銀いろの大き花環はわが門に立つ
明日のことを言ひて眠りき明日の無い人と知ります神などゐしや
まだ何か奇蹟を待ちてゐるわれにをりかさなりて弔電は来る
濡れそぼち泥にまみれて行く犬も仲間のやうに思へてならず
眉墨を刷きてやらむにせともののやうにつめたし死人の頰は
葛の葉を鳴らして渡る雨の音居眠りしことの醒めてあさまし
さまざまに思ひ乱れてもう一人ゐては叶はずわが如き人
どのやうに角度変へてもわれのゐて鏡に映る範囲灰いろ
水道をとめて思へばかなしみは叩き割りたき塊をなす
妹よ父よ母よとつぎつぎに蓋をして蠟の火を消しゆきぬ
文字板は黒く光りてもう一人わが法名を記せば終る
幾夜経てうすばかげろふのひそむ部屋音をたててものがれむとせず
畳の上の菊の花びらあつめつつ何かきつかけを得たき思ひよ
さまざまの死に会ひひとり残されぬ湿布の匂ひ点滴の音
われを離れしわれのもろ手はたをやかに黒と銀との水引を結ふ
タムタムも死ねば止むとぞ水面は日ぐれを待たずかげりてゆきぬ
かつがれてたやすくしなひ土を擦り運ばれゆきぬ大きゴムの木
手抜かりはわれにありしや逝かしめて思へることのおほむね暗し
はかなげにゐし日を思ふ片羽根を閉ぢて墜ちたる鳩と告げつつ
スクリーンの藍が屋根まで降りて来てたちまち暮るるビルの向うは
黄の蝶につきて出でゆき今ここにをらざるわれと誰も気づくな
半ばよりそれてありしを取り戻し帰らむと立つ会議終りて
天日にまたさらされぬ音もなくあきたるドアをまろび出づれば
すれすれに車をよけてよけ得たるわれを不思議のごとくに思ふ
寄る波のどの部分かが光りつついつしか明けてゐる海の上
遠くまで引きたる波は新しき励みを得たるごとく寄せくる
砂山の稜線を白く波だたせ押しよせてくる雨のいきほひ
いちめんに咲く曼珠沙華どの花も花火のやうに中心を持つ
歩むことやめて見をれば万象の音を吸ひ込むやうな没り日よ
もうどこにもゐないと思ひみひらくに不意にかげりて午後三時の日
神経の集まりゆけりピンひとすぢ抜けてゆるびし髪の根もとへ
モデルなどのありて描きしやルオーの絵の小人は前の歯が欠けてゐる
位置替へて鳴きつづけゐる虫のこゑ木が立ててゐる声かと思ふ
起きゐるといふのみになり机の上の錐の先など輝きはじむ
生まれかはることのありとも物陰をうそうそ這ふ虫などにはなるな
雨あとのしづくをおとす松を見て指の先までほほけて坐る
目の前に鏡が置かれ水分の切れたるごときわが顔映る
十六夜と暦に読みて出でし朝雲は散りばふ花のごとくに
毎日の勤めのなかに思ひをり人に乞はれてなすはたやすし
ガラス戸にひらめく蝶の羽根をたたみとまれるときにわが目に見えず
ほのぐらき紫いろに返り咲くひたかたまりのあぢさゐの花
身を細めゐし妹かせがむことの少なくなりてありたる思ふ
思はぬ近みに花火あがれり見ようともせぬ人多きバスに過ぎゆく
ふだん使はぬ荒き言葉を投げてゐし夢より醒めていつものひとり
灰皿を洗へばなさむことなくてリボンフラワーの埃も払ふ
音立てぬ呼吸なしゐて壁面の鏡を見れば動き出す部屋
この夏をしのぎて在りてゆく末に盲ふるほどのよろこびあれよ
坐りても立ちても雨の音溢れ今年は犬も妹もゐず
亡き人と見たる花より小さめにオランダつゆくさいまだ咲きつぐ
伴はむひとりさへなく秋ふかきふるさとの町へ発つ日近づく
明日の夜になさむ仕事を残しおく眠りゐる間に死なざらむため
旅立ちの用意の何かととのはずみ骨を置きていづこへ行けむ
指先がつららのやうに尖りゐきさびしき夢を見て起き出でぬ