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目録ID ku006003
タイトル. 版. 巻次 ガラスの皿
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野分の章
ガラスの皿
はるばると来しわれのため幾たびも言ひて曇れる入江を見しむ
相輪のあたり煙ると思ふまで次第につのり塔に降る雨
人へ置く距離曖昧に歩みつついたく小さしわが洋傘は
拭きながらガラスの皿も見失ふ思はぬ酔ひの身に残りゐて
一日中真夜中のやうな地下の書庫何のはずみにここに働く
紫に染みて靄だつ街のさま当然ひとりの夜がまた来る
二十年先のことなど言はれゐてわれにはさびし明日のことさへ
寄せ置ける落ち葉を鳴らす夕の雨俄かに秋の深む思ひす
昨日のことのやうに思へど白萩の倒れてゐしはいづこの道か
もの音を立つることなきわが生活隣の庭は木を整ふる
前歯などの欠けゆくやうに一つ一つ錆びて落ちつぐ金魚草の花
充電せる馬などのゐるけはいしてまつすぐ歩みゆくほかあらず
みな同じ本のかたちと思ひゐてまどろめるらし手の冷ゆるまで
中座して帰りゆく人もさびしからむ送りに出でて霧の夜と知る
屋上に濡れゐむベンチ思ひつつ仰ぎてゆくりなく虹に会ふ
自画像も未完のままに遺されてモナ・リザにいたく似る人なりし
選ばれて折れたる枝と思ふまで路上に落ちて雪煙り挙ぐ
よろこびはかくかそかにて水を打ちよみがへりくるパセリの緑
サボテンの鉢を溢れてやみがたくこぼるるものの砂のみならず
迷ひたるのみに終れど幾日経て痩せしと思ふ指輪抜くとき