/ 11652ページ
目録ID ku006007
タイトル. 版. 巻次 雨の坂
タイトル. 版. 巻次(カナ)
タイトル. 版. 巻次(ローマ字)
タイトル関連 野分の章
タイトル関連(カナ)
タイトル関連(ローマ字)
欧文タイトル
タイトルに関する注記
編著者
編著者(カナ)
編著者(ローマ字)
出版者
出版者(カナ)
出版者(ローマ字)
出版年
出版年終
数量
形状
大きさ
大きさ(縦)
大きさ(横)
材質
形態に関する注記
保存状況
縮尺
その他の注記
言語 日本語
ISBN
ISSN
件名
件名(カナ)
件名(ローマ字)
地名件名
地名件名(カナ)
地名件名(ローマ字)
人名件名
人名件名(カナ)
人名件名(ローマ字)
内容年
内容年終
内容細目
内容細目(カナ)
内容細目(ローマ字)
解題・説明
解題・説明(英語)
来歴
来歴(英語)
所蔵機関
原資料の所在地
資料番号
管理記号
カテゴリ区分 図書
資料種別
資料分類(大分類)
資料分類(中分類)
資料分類(小分類)
文化財情報
manifest.jsonへのURL
参照データ
関連ページURL
関連画像URL
自治体史掲載
出版物・関連資料
翻訳元の言語
権利関係・利用条件
原資料の利用条件
権利関係・利用条件に関する注記
緯度・経度・高度に関する注記
DOI
既刊目録名
デジタル化の経緯に関する注記
/ 11652ページ

関連目録
ナビゲーション リンクのスキップ
野分の章
雨の坂
いつのまにあがれる雨か夜の水は鏡のうしろの如くしづもる
しみじみと今日もひとりぞ帰り来て雨に濡れたる把手回すとき
雨傘を打つ音に似て脅やかす棕櫚の葉を打つ夜の雨の音
眠られぬ理由を思ひめぐらして思ひつくころ寝入るならひよ
すきまなく青葉となれる山が見ゆ山の笑ふはいかなる朝か
こだはりてわが在るものを雨のあと癒えたるごとき空がひろがる
梅雨のころ病み易かりし誰も亡し弟切草は蕊立てて咲く
生くる限りの罪かも知れず黄に熟れしさくらんばうは芯まで黄いろ
バス待ちて手話をつづくる少女らの世界もまぶし今のこころに
クーラーに背を吹かれつつ待ちをればはね返るやうなバナナのかたち
みまかりし人らの住むといふ国のいづこと知れず降りしきる雨
こときれてわれにかかりし重みなどよみがへりつつ忌の夜をゐる
つなぎたる部分よりまた切れたるを電気コードのこととして置かむ
一歩だに引けぬと思ひゐたりしが醒めてふたたび耳の鳴り出づ
目の前の闇をへだてて芍薬のひらかむとする花のしづけさ
ひとすぢの青竹として雨にしなふかかる撓ひも人に知られず
草むらをのぼりつめたる影のまましばし吹かる堤の上に
道に会ひ駅までの坂を歩みつつ病みて久しき人の名も聞く
鈴懸は揉まれつつ立つ街灯のいまだともらぬうすくらがりに
三階の事務室に日毎眺めつつボーリング場へも入りしことなき
思はざる遠くまで見ゆる日のありていまだ木立の多きこの町
木の幹にたれか自転車立てかけぬ裏側そよぐ銀杏の若葉
夜となれば血管の浮く手の甲をさびしみてひとりの夕食を終ふ
身を匿すすべを思へるときのまに信号は青にかはりてしまふ
心臓のかたちといふを思ひたり動悸して闇にめざめゐしとき
おほかたは聞きてそのまま置く習ひ身につくこともさびしき一つ
平静に戻らむとしてひひらぎの棘のさだかにわが目に見え来
庭土をおほひて苔の青みたり息苦しきはわれのみならず
間をおきて忘れしころに花おとす椿を軒にひと日もの縫ふ
空き壜の残りはさかさに交叉させ運び去りたり音もろともに
風邪ひかぬ算段をして脆きかなひとりにはこの家も広過ぎむ
枯れ枯れの欅も枝を空に向け声を限りに芽ぶかむとする
降りつのる音を聞きつつ雨傘をことわりて帰りゆきし理由も思ふ
失はば大きからむと知りてをり知りて失ふ日を待つわれか
戻り来し人形は壁に吊されぬ衣裳ばかりの重さに垂れて
終点に近づくバスの床の上紙の徽章の幾つちらばる
意のままになること一つなき日にて駅を出づればまた雨の坂
眠れずにゐるはすかひにほの白きかたまりをなす百合の蕾は
舞ひやまぬ羽虫目に追ふかたはらに帰りゆく家ありて人はしづけし
足もとの枯れ草に火を放つとも熔けず残らむわが石一つ
追ふわれも追はるるわれも息切れて苦しかりにし夢より帰る
見慣れたる遠景のなか黄のバスがとまれる店のしばし賑はふ
何となく身がるになりてみづからを吊す糸吐く虫を見てゐる
出でて来し手品の種のマッチ箱かかる遊びをわれは厭ひき
明日からの筋書きを書きなづみつつ渦に巻きおく髪重き日よ
推しはかることのさびしさ帰り来て輪ゴムひとすぢ畳に拾ふ
枝のない立ち木のやうにゐたりしがよみがへりたり髪を吹かれて
散りつくすまでをと賭けて待つことも柘榴の花の照る赤さゆゑ
おろしたる旗をたたみゐる人の見ゆ風を利用して角そろへゆく
鰭も持たず翼も持たず終るならむ長き刑期のごとき一生を