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目録ID ku006035
タイトル. 版. 巻次 冬の保護色
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野分の章
冬の保護色
蘭の鉢を取り込まむとし花よりも葉よりも寒きわれかも知れず
コーヒーの缶買ひ足して店を出づ冬は入り日の美しき町
坂の上にバスを待ちゐてゆくりなく雪積む屋根に照る月も見つ
葉先のみ青々としてすきとほり茎折れ易し冬の三つ葉は
なほざりになすこと多く一人には広き階下を区切りて住まふ
卵黄のかたまるまでの十五分縛らるるごとし見えぬ絆に
石蕗の一輪のみが咲き残り昨日と同じ蜂か来てゐる
とめどなく流るるわれをくひとむる柵のごときはまさ目に見えず
あがなはむ咎もあるべし現し身の膝腫るるまで立ち働きて
まじなひに過ぎざらむともマグネットの頸飾りして仕事に向ふ
マホメッドも隊商として若き日は小走りに歩く男なりしと伝ふ
いけにへの像は醜く彫れりとふすさまじかりし古代を思ふ
身に響き楔打たるる夢なりき丸太なりしが跡形もなき
薄墨いろの雲に戻りて暮れむとしビルは生き生きとともり初めぬ
駅前にあつまる車見てあれば流線型とふ言葉も古りぬ
踏み絵などにいつかは必ず試されむわれと思へば寒し未来も
亡き人のいまさばと頻り言ひ呉るる新しくなりし家を訪ひ来て
はじめよりかうなると決りゐしごとしひとり近づく父のよはひに
身代りに枯れゆく蘭と思ふまで蝶のかたちの花びら垂りぬ
保護色のごとくに黒のセーターをまとひて過ぎて今日は立春