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目録ID ku008002
タイトル. 版. 巻次 流動食
タイトル. 版. 巻次(カナ)
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印度の果実
流動食
水量の平生に戻りてしづかなる川のほとりのおもだかの花
いづくまで行く魂か流木のかたちに流れつくことのあり
浅き瀬に何のひそむやかすかなる水の濁りの見えて影無し
芥ともあらずときをりひるがへり流るるもののふと反照す
わだかまる藻のかたまりに波は来て力を試すさまに引き摺る
呼ぶ声の水にひびかひ草むらにもう一人ゐて少年のこゑ
うづ高く積まれし落ち葉おのづから息吐くごとしどこか崩れて
乱るるはわがこころかと思ふまで収穫終へしキャベツの畑
倒れたる萩を起こしてゐる人に振り向かれつつ歩み来にけり
会ひがたき人のみにして石仏の祠を示す道標立つ
音の無き時間ながれて石蕗を離れし蝶のいづくへ帰る
はすかひに飛べるフリスビー帰り来て黄の鳥の如く草生に沈む
ガラス絵の薔薇の花びらすきとほる幾重かさねてつひに紅薔薇
窓にさす陽をカーテンにやはらげて何かつりあふ思ひにゐたり
若き子を死なしめし人のおもむろに立ち直る日々を共に働く
トロイメライ久しく鳴らすこともなくオルゴール置く二階の部屋に
戻り得ぬ家かと思ふ入院の車のバックミラーに見つつ
運ばれて来てなす朝餉体温よりやや温かし流動食は
吸呑を濯ぎてをれば効用に合はせて作られしもののかたちよ
病室にわれのみとなるときのあり滝なして降る暮れがたの雨
霧のなかに斜塔のごとき見えながら眠りゆきたり点滴終へて
緊急を告げて呼ばれし医師ならむ雑音のみの放送終はる
病室の片隅に置くハイヒール癒えて履く日のいつとも知れず
忙しき職場なれども光差す場所の如くに病みをれば恋ふ
獄中のくらしも知らずたぐへつつ嵐の夜半をながく醒めゐる
癒えて再びこの病院を出で得なば身を粉にしてなすことのあれ
みまかりて空きたる部屋に病む人の間なく入り来て点滴を受く
薔薇あまた挿せる病室持ちて来し小さき辞書は開くことなし
向う側は小児病棟子どもらのつむり幾つも並ぶことあり
あやつりの糸のもつれて立ち得ずと病みつつ見たる夢のきれぎれ
二十日ほどを苦しみてわれの去りゆくにいのちのきはを病む人多き
トランプのうらなひをして夜にをれば隣の部屋はくらやみの箱