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目録ID ku008005
タイトル. 版. 巻次 卯の花の雨
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印度の果実
卯の花の雨
測量の人らの去りし野の上は泡立草も未だ芽吹かず
紫陽花のしげみのかなた賑はひてプロゴルファーの今日は来てゐる
帰化したる人らの彫りしみ仏と伝へて仰ぐおとがひ豊か
仏像の耳は重しと仰ぎゐて次第にわれの耳の垂りくる
いつの日の母の言葉かみ仏は扁平足を持ちいますとふ
雨の日の卯の花を見て通りしが今日は茶室に人のけはひす
池水の底の闇よりのぼりくる幽鬼のごとし真鯉の顔は
石碑の根元の草にあまたゐて何の蝶とも知れずたゆたふ
はみ出でし枝の先なる蔓薔薇のひときは赤し日に照らされて
つつがなき明日ある如しほどけゆく航跡雲もかすか茜す
終点まで行きてみむ日もなくて乗るバスと思へり降りし夜道に
西日本を黄砂はひろく覆ふとぞこもりゐて空を見ざる一日に
冷蔵庫のなか明るくて生みたてを賜びし真白の鶏卵並ぶ
父母の名も妹の名も消されたる戸籍謄本見つつすべなし
亡き父の姓をそのまま姓として書類に古りし印鑑を押す
ときのまに日ざし洩れ来て喪の花の銀はまぶしく光を返す
職ひきて久しきものを取引先の電話など今に記憶すと言ふ
しばらくをかけなづむ鍵の音のして隣の家のたれか出でゆく
北国の桜の花も終るとふ紫陽花に降る雨やはらかし
安物の宝石あまた持ち古りぬこころすさめる日々に求めき
錆びいろの葉を持つアートフラワーの枯るることなき平安も良し
死のあとに残されむもの度の違ふ眼鏡の幾つ思ふことあり
とりたてて思ふならねど静かにてかなしきときに歌の生まるる
カレンダーにしるし置きしが今朝見れば唐招提寺の祭りもすぎぬ
さすらひの子猫を飼ふと決めしよりすなほになれる少女と伝ふ
雨季のくる前には再び痛まむとわが持つ傷を人の気づかふ
食事のあとゆるぶ体のうとましくながく坐れり何なすとなく
夜の部屋の四隅寒しと見回してたちまち雨の音にかこまる
教へ子といへども不惑をとうに過ぎ一人は韓人の妻となりゐし
賑やかにゐたりし子らも帰りゆきかすかに濁る絨緞のいろ
滑り台斜めにかかりゐたるのみ小公園に降る雨あはし
語るべき人もあらねばセーターを重ねて梅雨の夜を起きゐる