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目録ID ku009012
タイトル. 版. 巻次 雨の音する
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風の曼陀羅
雨の音する
ヘッドライトに照らし出さるる夜の坂往きに見ざりし木が立ちあがる
屋上の灯のともりゐるところまで昇りつめたる目をひき戻す
みづからの肩に清めの塩を振るいまだ生なる身を帰り来て
病みがちに指美しき人なりきその指を組みて旅立ちましぬ
竹似草刈られて広き川提胸のあばらも透くごとき日よ
廃線のレールのほとり散りそむるあり咲き出づるありて白梅
散らばれる親馬仔馬子供らのゑがく仔馬はいたく小さし
発掘のあとをそのまま霜枯れて風に打たるる目じるしの旗
稲藁を焚きゐる塚はひとしきりのろしの如き煙あげたり
こだまにも遅速のありてはるかなる雑木の山も芽ぐまむころか
梅園をくぐりて来れば絵馬堂の絵馬は木の音立てて吹かるる
堪へ切れず垂るると如く中天を撓めてゆけり航跡雲は
雪どけに濁れるを見て去らむとす澄みゆくまでの時間も知らず
県境の村はたちまち暮れゆきて夜に見る梅はつぶつぶの白
瓶の形をそのまま包める持ちものを横にして膝に置けり少女は
日だまりの斑雪を掻きてゐたりしが首立てて鳴く牝鶏一羽
種を採る菜のみひと畝残されて匂ふばかりの黒土となる
学用品の広告が今朝も配られぬ太郎も次郎もあらぬわが家に
犬を曳く少年が行き夕刊の薄きが届き冬の日暮れぬ
膝つきてボタンつけをればいつの日の夕べにか似て雨の音する