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目録ID ku009015
タイトル. 版. 巻次 うすづきそめぬ
タイトル. 版. 巻次(カナ)
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風の曼陀羅
うすづきそめぬ
三叉路を折り返しくるバスが見ゆ遠く辛夷の咲くを見をれば
壁面に水をあびせて洗ひをりルミノール反応などは出でずや
何者の去りし歩幅か枯れ草に大き礎石の十ばかり浮く
大正の生き残りとててのひらにこぼしつつ食む雛のあられを
合はせたるグラスの音のかそかにてこの世を去らむ順など知れず
七階の窓よりゆくりなく見たる町の釣堀は瓢のかたち
癒えしとふあかしもなくて今日来れば道は一気に葉桜となる
思はざる会話聞こえて二人ともガダルカナルの生き残りとぞ
咲きほほけしたんぽぽの土手人の名をかぶせて残る橋も古りゐつ
渇水にあらはとなれるダムの底この世のものともあらず渇けり
一輛のみの電車が行けり朝市は枡もて測り青梅を売る
アレルゲンと今は知りたる鶏卵の積まれゐてわれを誘くことあり
庭園の木の名草の名一つづつ読み来て棉の花咲くに会ふ
白骨となりても遂げむことありや水に押されて水動きをり
河はらの水もたそがれそめたればをはりに犬のための石積む
マンションのはざまの狭きくらがりに夕べを遊ぶ子らの声する
紫のキャベツほどにも太らせし思ひなれどもうすづきそめぬ
手花火に大き頭部の影立つは須臾にして元のブロックの谷
ノースリーブの肩やや寒し呪の塩の積まれてひそと戸口ありたり
思はざる柾目の木の香匂ひたり赤鉛筆を削りてをれば
目を覚ますみどり児がゐるにあらねども音をしのびて湯を浴みてをり
断水を告げゆく広報車の過ぎて町のいづこかざわめきはじむ
かたまりて沼のくらがりに眠るらむ眠れぬ鴨はどうするならむ
もろびとに祈りはありて雨のなか茅の輪くぐりの賑はへりとぞ
待ち針をさし替へをれば人の世のおほよそはすでに身を過ぎてをり