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目録ID ku009042
タイトル. 版. 巻次 ひとりぐらゐは
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風の曼陀羅
ひとりぐらゐは
夫とわれと共に働く生活の七年にして或る日終はりき
けものみちをあらはに見せて風が吹くただ熊笹の音のみのして
出土せる黄金の鐙見むと言ひ旅びとは今日も駅に溢るる
すれすれに地上を飛べる子雀も次第に角度をあげてゆくらむ
風立てば幹ながら木を傾けて振り落とす如き楓もみぢ葉
園児らの三分の一ほど残されて踏切の手前しばし賑はふ
料亭の建仁寺垣に沿ひて来て曇り日が似合ふ町と思ひぬ
家並みを貫きて通るハイウエイの高さに桐は実を掲げゐつ
停留所は落ち葉日溜まり癒えてまた立つ日のありと思はざりけり
机より咄嗟に立ちて来し厨白粥の湯気に眼鏡くもらす
何ほどの予知能力を持つ鳥か病みゐて鴉を怖れし日あり
駅前の大小のビルが浮かびたり「街」といふ字を見詰めてあれば
多分夢と思ひつつなほ走りたり逃げても逃げてもつかまりさうで
歌に知る消息にして仙台のアカンサスは今年咲かざりしとぞ
冬服のベストを着たる少女たちセーラー服は少なくなりぬ
港まちの教師をしをれば鯨長者の娘もゐたりきわが教室に
使ひふるしし物ばかりなる身のほとりメジャーはすぐに捩れてしまふ
北を指し飛ぶ一番機敵機かと目ざめて今も思ふことあり
クリークに落ちてかへらぬ兵ありき同級の一人なれば忘れず
根の国にみんな盗られてこの年もただ雪を待つのみとなりたり
階段まで灯をともし待ちをればひとりぐらゐは戻りて来ずや