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目録ID ku012009
タイトル. 版. 巻次 冬の言葉
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短歌
冬の言葉
風のなかに身を反らしあふ冬の木々けぢめなく待つ時間流れて
錆び釘を拾ひて土に書きし文字落ち葉の下に幾日保たむ
駅を出でて枯れ野の口に懸かる橋バスを渡してより渡りゆく
流れつつ向きを変へゆく芥見つ箴言などに拘る日にて
針山にもつれゐし糸ほぐしつつきれぎれに戻りくる記憶あり
降り出でて石の粗面を濡らす雨人も蹤きゆく犬もしづけし
しづくしてゐしアカンサス鎮まれば理詰めに言へることもはかなし
へだたりを確かめ合へば足るごとくドア押して出づ夜霧の街に
塗りつぶしゐる夜の時間風疼く雑木林を背後に置きて
マジヨリカの壷伏せ置きて久しきにシレーヌのこゑも蘇り来ず
前髪に雪のしづくを光らせて訪はむ未知の女のごとく
落体となりゆくわが身思ふまで壁に吊られてゆがめるコート
ストールのひるがへりつつ歩む影堤の上を遠ざかりゆく
杭を打ちゐたる人らも去りゆけば野になづさひて草火の煙り
袖刳りの曲線を裁つ手もとより夜のほとぼりも失ひ易し
語原など知り得しことの何ならむ書庫閉ぢて石の廊下を渡る
有機物の燃ゆる臭ひと思ひゐて肩へ集まりくる疲れあり
死語ばかり知る寂しさか本あまた積みて焚きゐる夢など見つつ
釈明を下待つわれも寂しきに落ち葉は深し轍うづめて
落飾し終れる古き物語りきりきりと堪へてゐる日々に恋ふ
鉢の外に魚のはみ出しゐる童画はみ出て赤き尾鰭がそよぐ
突き落とす刹那に醒めし夢のあと色無き雲の流れてやまず
待たれゐむ檄さへ今は書き得ぬに組みを解かれてひしめく活字
喪の記事を足して校了とし来し夜の電熱器の渦音なく点る
鐘の曲ながれくる朝の窓黄味つぶらかに卵は割らる
花の屑散らばる花舗の前過ぎてマツフのなかの手があたたかし
片空の虹もうすれて凪ぎ深しまつはる犬を枯れ木につなぐ
いだきゆく鉢の桜草花ゆらぐ言ひそびれたる語彙が重たし
春を待つ木々のしずけさ巣箱幾つ懸け終へて人の去りたる後も
遠景をとざして芽ぶく雑木原沼は音なく水湛へゐる