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目録ID ku012014
タイトル. 版. 巻次 帰らぬ魚
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短歌
帰らぬ魚
噴水に濡るる塑像をふり仰ぐするどき骨をわが身に持ちて
うす青き切符一枚幼な子のレースの胸のポケットに見ゆ
雨のなかに花咲ける日は短かくて合歓の葉先の早く衰ふ
花鋏探しに出でて地にかがみそのまま草を抜き始めたり
幼な子と歩幅合はせて歩むさま遠く見しより憎まずなりぬ
眠られぬ夜々に思へばみづからの羽根抜きて紡ぐよろこびもなし
嗅覚の鋭くなりて野をゆけり霧の向ふに牛の声湧く
道に会ひ連れだちて帰る妹のいだく荷のなかセロリが匂ふ
雨にけむる海見ゆる窓色褪せし紙の桜をいつまでか吊る
キヌバリと呼ばるる魚のすきとほり何のけはひに身をひるがへす
水槽の藻のあたりより暗くなる部屋と思ひて身じろがずゐる
むらがりて岩をめぐれる魚のなか脱けて帰らぬ鮒などあるや
もまれつつ花束の流れゆくを見つ幼きこゑの川上にして
許さずと決めて暫く眠りたり苦しめることも言はずに過ぎむ
耳鳴りの残る寂しさわが髪に黄蜂むらがる夢醒めしあと
何事か否定せむとしバスのなかに次第に激しゆく指話のさま
ぬかるみをよけし刹那につまづきて工事場のライトしたたかに浴ぶ
体温を計られて来て危ふきに水に沈めるスプーン輝く
くたくたになりて目覚めぬ群集のなかに一つの顔を探しゐき
顴骨の高くなりたるわれの顔鏡の奥にも雨は降りつつ
とどまらぬ雲の流れを仰ぎゐて耳のうしろのさわだちやすし
こだはりを持ち歩く身と気づきたりポケットの右手汗ばみてゆく
硝煙の匂ひか遠くよみがへる枯れ葉を飾るほかなき空に
シリユウスを仰ぎて来しがいつまでも揺れやまぬ木々眼裏に見ゆ
秋の夜の炭火匂ひて人の名を灰文字に書くかなしみも過ぐ
ひとりでに鳴るオルガンも古りたらむ風の夜は思ふ山の校舎を
山茶花の咲く日となりて傷つける青のインコも癒えてゆくらし
日だまりにつなぐ仔犬をかまひゆく卵を売りに来るをとめらも
傘のなかに見知らぬわれが歩みゐる雨にまじりて木の実降る道
方角を占はれゐる椅子の上まぶた閉じてもいづこも寒し
降りしきる落ち葉のなかに人のゐて螺旋の階を白々と塗る
少年の鼓笛隊遠く野を行けり取り残さるる打楽器の音
あは雪を降らせてゐるはたれならむ声をひそめて人の行きかふ