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目録ID ku012028
タイトル. 版. 巻次 オーロラの布
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短歌
オーロラの布
仮面つけて大胆になるにもあらず降りしまく雪は白の闇なす
かかる夜のかつてもありき額に降る雪は涙のごとく垂りにき
片方の耳環落として帰り来ぬ耳も落として帰る夜あらむ
日中の電車に行けば駅の名のなべてやさしきひらがなの文字
身の内にとぢこめておく何ならむ黒のコートを分厚くまとふ
前歯もて手袋を脱ぎししぐさなど思はれて恋ほし雪の降る日は
喉の奥を覗き見られてゐし間何も見ざりしわれと気づきぬ
機械にてなし得ぬ部分補ふが技術者と言へり白衣に立ちて
血統といへるはわれも継ぐらむか働きすぎて若く死ににき
痩するなと言ひ呉るるなり身痩するは魂痩することの如くに
オクターブ下げて物言ふわが声に気づきぬ午後となりしゆとりに
動作から心を測るわが習ひわれを狭めてゐることも知る
降りて来て踊り場の鏡に映りたる足のかたちのけものめく日よ
風のやうにつねにありたき願ひなど願ひのうちに入らぬならむ
思ひゐしことを阻みて感光のうすきコピイが配られはじむ
橋の上に少女のゐしがブラインドのおろされしあといづく行きけむ
肉体の痛むかと思ふまで胸の痛む夜のあり職場のことに
死魚の浮く湾ありといふわが眠る畳の上といくばくの距離
眠られぬ夜々のあとまた生きてゐるのみに足らむと思ふ日つづく
夜の空を鳴きて渡るはひもじきか水をとめたる厨にきこゆ
スプーンなどの不意におもたく指先の熱にアルミの箔を曇らす
四十年も前に見しのみふるさとの石割り桜咲けりと伝ふ
匿まひたき一つ二つたれも持つならむ夜の桜を見むと連れだつ
たれもゐぬわが家ながらさゐさゐと机上さわだち待つ仕事あり
百合の花のみなひらきゐて空間をせばめられたる思ひに坐る
ハイウエイに出でて日の差すバスの床少年らサイズの大き靴履く
甲子園も雨といへり雨にこもりゐて縫ひさしのコート縫ふにもあらず
人の口のかたちなど見えてゐたりしが電話を切ればまた雨の音
藤の花の咲ける明りと気づくまで無体に歩み来て立ちどまる
わがために織るとし聞けばいまだ見ぬオーロラのごとし一枚の布
スプレイに夏の香水詰めてゐて幾年も見ぬ海がひろがる