機関トップ
資料グループ
テキスト一覧
年表一覧
キーワード一覧
さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―
トップページ
資料グループ選択
全短歌(10791首)(資料グループ)
春のうしほ(目録)
/ 11652ページ
目録ID
ku012030
タイトル. 版. 巻次
春のうしほ
タイトル. 版. 巻次(カナ)
タイトル. 版. 巻次(ローマ字)
タイトル関連
短歌
タイトル関連(カナ)
タイトル関連(ローマ字)
欧文タイトル
タイトルに関する注記
編著者
編著者(カナ)
編著者(ローマ字)
出版者
出版者(カナ)
出版者(ローマ字)
出版年
出版年終
数量
形状
大きさ
大きさ(縦)
大きさ(横)
材質
形態に関する注記
保存状況
縮尺
その他の注記
言語
日本語
ISBN
ISSN
件名
件名(カナ)
件名(ローマ字)
地名件名
地名件名(カナ)
地名件名(ローマ字)
人名件名
人名件名(カナ)
人名件名(ローマ字)
内容年
内容年終
内容細目
内容細目(カナ)
内容細目(ローマ字)
解題・説明
解題・説明(英語)
来歴
来歴(英語)
所蔵機関
原資料の所在地
資料番号
管理記号
カテゴリ区分
図書
資料種別
資料分類(大分類)
資料分類(中分類)
資料分類(小分類)
文化財情報
manifest.jsonへのURL
参照データ
関連ページURL
関連画像URL
自治体史掲載
出版物・関連資料
翻訳元の言語
権利関係・利用条件
原資料の利用条件
権利関係・利用条件に関する注記
緯度・経度・高度に関する注記
DOI
既刊目録名
デジタル化の経緯に関する注記
/ 11652ページ
関連目録
短歌
春のうしほ
若き日を知らねば母の簪の一つさへわが見たることなき
鬼百段の階ありといふ夜もすがらミシン踏むともいくばくを縫ふ
坐りゐて胸の騒げりわがなかに今まざまざとゐる敵一人
荒縄を帯に巻けるも聖者ゆゑひとりひとりがさだめをになふ
丘の上に残れる木立きはだてて人工光線のごとき夕映え
粉末を手に握るときの感触を思へり遠く施肥なす見つつ
言ひ出でて歎くことにもあらざれば並びて待ちて切符を買ひぬ
をりをりに現るる扉のごときものとばりのごときものに救はる
今にして迷ふと知らばかなしまむ死者に思ひの近づきてゆく
踊りの輪を脱け出でてひとりくらがりにゐたりし夢のあとへ続かず
販売機よりをどり出でたる銅貨二枚地面の闇に吸はれてしまふ
新しき持ち場に慣れてゆく日々に木蓮の花も終らむとする
印捺しておきたるのみにわれの手にまた戻りたり古りし楽譜は
目を凝らし獲物を待つといふごとき緊迫もなく過ぎむ一生か
指先に視線あつめて織られゆくひとすぢの縞のオプティミズムよ
幾重にもかかれる橋の見えてゐて川上の橋を電車に渡る
パンの顔をまるく陽気に描きたりピカソもいまだ若かりしかば
暗黒の空にありたる断片の虹も消えたり画廊出づれば
帰りゆくほかはあらぬか人の手にわれの切符は買はれてしまふ
遠ざかり来しわれは何のかたまりか水のほとりに声もなくゐる
たのしよとのみに啼くにもあらざらむゆふべ雲雀の複数のこゑ
見下ろしに描ける村の全景に望楼ありて一人昇れる
湧き出でて身を押し包み去りてゆく霧のごときかわがかなしみは
うちつけに愕くことの少なきを恃みて人のさまざまに問ふ
物を言ふをりをりにのみ存在し人ら並べりながき会議に
もう一人入れて写真をとらむとし事務所よりたれか出で来るを待つ
交替の準備なしつつ一人一人の存在濃ゆくなる時間帯
屈するは膝のみとして立ち直る若き日ありき勤めて長き
計算機を打ちて二時間今のわれは数値詰めたる袋のごとき
迎合の思ひ湧くとき信号が青にかはりてこと無きを得つ
働くことはよごるることか帰り来てブラウスを洗ふゆふべゆふべに
手袋のチュールに透かすトパーズを賜ひし人もすでにおはさぬ
満員のバスにゆられて通ひつつ帰りには見ず桃の花さへ
美しき断崖として仰ぎゐつ灯をちりばめしビルの側面
形代を燃して焔を立てしのみ雛の夜を睦まむ妹はゐず
亡きあとの家を守りつつ釘一本打てざりし人なりしを思ふ
うるほひて固まる砂と思ふまで鎮まりてありこよひのわれは
姿なく来るといふこともあるらむか思ひ直してミシンを踏みぬ
毛皮もて耳を覆へる写真など出で来て戦争の記憶を返す
塹壕は何に見えしやたどりつきて落ち込みざまに果てしと伝ふ
山鳩のしき鳴く聴けば戦場の雑木林も芽ぐまむころか
浜木綿のもつるる花を見て醒めてもやもやとせり天井の闇
台詞の無いドラマのやうな五日経てまだ生きてゐる喉乾きゐる
病室の螢光灯も天井にはりつけられて窮屈に見ゆ
窓をあけぬ限りは見えぬ安らぎに椋鳥らしき気配聴きゐる
二十日寝て窓をあくればわが庭の春のもみぢのうすくれなゐよ
待ち時間長くなりつつ家族の無きことなどもつひ言わねばならず
トラックの停りてあれば思はざる大きタイヤを目の前に見す
堕天使にはなり給ふなという言葉十年過ぎてをりをり還る
幾ひらの花びら濡れて貼られたるバッグを膝にしばらく憩ふ
雪国は一気に何の花も咲く幼くて見しあんずの花よ
さまざまに縛られてゐむ水晶はつねつめたしと思ひなどして
バッテリーライターと謂へり思ひ切り高く焔を伸ばしてあそぶ
堰さへもみづから作りとどまると未だ残れる力を思ふ
降り出づる気配知りつつ起ちがたしもう少しにて見境がつく
信号を待つときのまに風の来て和服の人の殊に吹かるる
美しき手を持つ少女仰ぎ見て白のベレーをかぶれるも見つ
家に待つ仕事思ひて帰る道裾がおもたし冬のコートは
劇薬となる分量も意識してのまねば癒えず古りたる傷は
どのやうに高度を測る鴎らか這ひ松の上をすれすれに飛ぶ
朝霧を透かして山の見え初めぬなづみつつ描く下絵のごとく
高まりつつ迫れる波のつぎつぎに光の束をほどきて崩る
重量を増して一気に落ちむとし入り日はしばし赤くくるめく
うすら赤く太れるトマトを押し上げてゐる力など今なら見ゆる
太き茎をあらはに倒れし蕗見れば嵐のあとの風生臭し
足もとの今淵なせりひとたびは沈まむほどの気概湧き来よ
ほろびゆく肉体のなか最後まで生きて見えゐむわが目と思ふ
われの名をたれか呼ばぬか同じやうな抑揚に父母はわれを呼びにき
いつまでも憶はるることもつらからむアネモネの束を供華に賜ひぬ
窓ガラスを対角線に切りやまぬ雨見てあれば次第に激す
玉乗りの少女は声をあげむとしいつまで堪へて絵のなかにゐる
幼くて父と行きたるサーカスに火の輪くぐりの獅子などもゐき
舞台の上は萩も芒も枯れ果てぬなまじひに言ひて思ひ伝へず
すべあらぬ思ひなれども芽ぶきたる柳などよりはるかになびく
遠ざかりゆく帆船の信号に濁れりといふ春のうしほは
双眼鏡の円に入り来る椎若葉一枚づつにほぐれてうごく
あらはなるよろこびに似む風出でて樟の若葉のささめきあふは
楕円形の大き鏡に映りゐる階段をたれかとく降りて来よ
一本の木としてわれを思ふとき花の終りに降る雨寒し
黒板に書かれし数字地殻の持つ思ひみがたき厚みを救ふ
壁面の地図に朝鮮半島もサハリンも滴垂るるかたちす
地表にいまボール一つが残されて外切円をなしてしづまる
ひさびさにピアノ弾かむに今朝のみし薬の匂ひ指に残れる
菜の花も穂先まで咲きて咲き終へぬ思ひ遂ぐるといふやさしさに
雨のはれまのあかるき声を渡しゐる陸橋が視野にありて近づく
錫いろにひろがりて木々を覆はぬか地にしづまれる一枚の箔
雨季迫るきざしかわれの足音のタイルに吸はれ廊を往き来す
人を降ろしまた乗せて発つバスの持つ安定感を振り返り見つ
さまざまに人の訪ひ来て言ふ聞けばイドラのわれはいづくさまよふ
カンテラをとぼして見ゆるものを見む残り少なし光の量も
無防備に行くといふにはあらざらむ身に寸鉄も帯びずといへり
蔓薔薇の棘のさだかに見えゐしがもやだつ雨につつまれゆけり
夜は夜の仕事にまぎれ日中にありたることのなべて思はず
吹き降りの雨となりつつ夜に聴けば風の声のみ折り返しくる
印度更紗の布をひらきぬ目に見えてはかどる仕事こよひはしたく
畳一枚が持てるほどよき大きさに一枚として見つつ驚く
渦なして中心のなき思ひよりふと抜け出でて夜明けを眠る
輪郭のほほけて夢にあらはるるまでに古りたり鍵のゆくへも
魚の群れに混りゐたれば人間のわが名呼ばれて大き口あく
百合活けて壺のおもたき日と気づく顎に触れたる花のつめたさ
ナビゲーション リンクのスキップ
短歌
春のうしほ
若き日を知らねば母の簪の一つさへわが見たることなき
鬼百段の階ありといふ夜もすがらミシン踏むともいくばくを縫ふ
坐りゐて胸の騒げりわがなかに今まざまざとゐる敵一人
荒縄を帯に巻けるも聖者ゆゑひとりひとりがさだめをになふ
丘の上に残れる木立きはだてて人工光線のごとき夕映え
粉末を手に握るときの感触を思へり遠く施肥なす見つつ
言ひ出でて歎くことにもあらざれば並びて待ちて切符を買ひぬ
をりをりに現るる扉のごときものとばりのごときものに救はる
今にして迷ふと知らばかなしまむ死者に思ひの近づきてゆく
踊りの輪を脱け出でてひとりくらがりにゐたりし夢のあとへ続かず
販売機よりをどり出でたる銅貨二枚地面の闇に吸はれてしまふ
新しき持ち場に慣れてゆく日々に木蓮の花も終らむとする
印捺しておきたるのみにわれの手にまた戻りたり古りし楽譜は
目を凝らし獲物を待つといふごとき緊迫もなく過ぎむ一生か
指先に視線あつめて織られゆくひとすぢの縞のオプティミズムよ
幾重にもかかれる橋の見えてゐて川上の橋を電車に渡る
パンの顔をまるく陽気に描きたりピカソもいまだ若かりしかば
暗黒の空にありたる断片の虹も消えたり画廊出づれば
帰りゆくほかはあらぬか人の手にわれの切符は買はれてしまふ
遠ざかり来しわれは何のかたまりか水のほとりに声もなくゐる
たのしよとのみに啼くにもあらざらむゆふべ雲雀の複数のこゑ
見下ろしに描ける村の全景に望楼ありて一人昇れる
湧き出でて身を押し包み去りてゆく霧のごときかわがかなしみは
うちつけに愕くことの少なきを恃みて人のさまざまに問ふ
物を言ふをりをりにのみ存在し人ら並べりながき会議に
もう一人入れて写真をとらむとし事務所よりたれか出で来るを待つ
交替の準備なしつつ一人一人の存在濃ゆくなる時間帯
屈するは膝のみとして立ち直る若き日ありき勤めて長き
計算機を打ちて二時間今のわれは数値詰めたる袋のごとき
迎合の思ひ湧くとき信号が青にかはりてこと無きを得つ
働くことはよごるることか帰り来てブラウスを洗ふゆふべゆふべに
手袋のチュールに透かすトパーズを賜ひし人もすでにおはさぬ
満員のバスにゆられて通ひつつ帰りには見ず桃の花さへ
美しき断崖として仰ぎゐつ灯をちりばめしビルの側面
形代を燃して焔を立てしのみ雛の夜を睦まむ妹はゐず
亡きあとの家を守りつつ釘一本打てざりし人なりしを思ふ
うるほひて固まる砂と思ふまで鎮まりてありこよひのわれは
姿なく来るといふこともあるらむか思ひ直してミシンを踏みぬ
毛皮もて耳を覆へる写真など出で来て戦争の記憶を返す
塹壕は何に見えしやたどりつきて落ち込みざまに果てしと伝ふ
山鳩のしき鳴く聴けば戦場の雑木林も芽ぐまむころか
浜木綿のもつるる花を見て醒めてもやもやとせり天井の闇
台詞の無いドラマのやうな五日経てまだ生きてゐる喉乾きゐる
病室の螢光灯も天井にはりつけられて窮屈に見ゆ
窓をあけぬ限りは見えぬ安らぎに椋鳥らしき気配聴きゐる
二十日寝て窓をあくればわが庭の春のもみぢのうすくれなゐよ
待ち時間長くなりつつ家族の無きことなどもつひ言わねばならず
トラックの停りてあれば思はざる大きタイヤを目の前に見す
堕天使にはなり給ふなという言葉十年過ぎてをりをり還る
幾ひらの花びら濡れて貼られたるバッグを膝にしばらく憩ふ
雪国は一気に何の花も咲く幼くて見しあんずの花よ
さまざまに縛られてゐむ水晶はつねつめたしと思ひなどして
バッテリーライターと謂へり思ひ切り高く焔を伸ばしてあそぶ
堰さへもみづから作りとどまると未だ残れる力を思ふ
降り出づる気配知りつつ起ちがたしもう少しにて見境がつく
信号を待つときのまに風の来て和服の人の殊に吹かるる
美しき手を持つ少女仰ぎ見て白のベレーをかぶれるも見つ
家に待つ仕事思ひて帰る道裾がおもたし冬のコートは
劇薬となる分量も意識してのまねば癒えず古りたる傷は
どのやうに高度を測る鴎らか這ひ松の上をすれすれに飛ぶ
朝霧を透かして山の見え初めぬなづみつつ描く下絵のごとく
高まりつつ迫れる波のつぎつぎに光の束をほどきて崩る
重量を増して一気に落ちむとし入り日はしばし赤くくるめく
うすら赤く太れるトマトを押し上げてゐる力など今なら見ゆる
太き茎をあらはに倒れし蕗見れば嵐のあとの風生臭し
足もとの今淵なせりひとたびは沈まむほどの気概湧き来よ
ほろびゆく肉体のなか最後まで生きて見えゐむわが目と思ふ
われの名をたれか呼ばぬか同じやうな抑揚に父母はわれを呼びにき
いつまでも憶はるることもつらからむアネモネの束を供華に賜ひぬ
窓ガラスを対角線に切りやまぬ雨見てあれば次第に激す
玉乗りの少女は声をあげむとしいつまで堪へて絵のなかにゐる
幼くて父と行きたるサーカスに火の輪くぐりの獅子などもゐき
舞台の上は萩も芒も枯れ果てぬなまじひに言ひて思ひ伝へず
すべあらぬ思ひなれども芽ぶきたる柳などよりはるかになびく
遠ざかりゆく帆船の信号に濁れりといふ春のうしほは
双眼鏡の円に入り来る椎若葉一枚づつにほぐれてうごく
あらはなるよろこびに似む風出でて樟の若葉のささめきあふは
楕円形の大き鏡に映りゐる階段をたれかとく降りて来よ
一本の木としてわれを思ふとき花の終りに降る雨寒し
黒板に書かれし数字地殻の持つ思ひみがたき厚みを救ふ
壁面の地図に朝鮮半島もサハリンも滴垂るるかたちす
地表にいまボール一つが残されて外切円をなしてしづまる
ひさびさにピアノ弾かむに今朝のみし薬の匂ひ指に残れる
菜の花も穂先まで咲きて咲き終へぬ思ひ遂ぐるといふやさしさに
雨のはれまのあかるき声を渡しゐる陸橋が視野にありて近づく
錫いろにひろがりて木々を覆はぬか地にしづまれる一枚の箔
雨季迫るきざしかわれの足音のタイルに吸はれ廊を往き来す
人を降ろしまた乗せて発つバスの持つ安定感を振り返り見つ
さまざまに人の訪ひ来て言ふ聞けばイドラのわれはいづくさまよふ
カンテラをとぼして見ゆるものを見む残り少なし光の量も
無防備に行くといふにはあらざらむ身に寸鉄も帯びずといへり
蔓薔薇の棘のさだかに見えゐしがもやだつ雨につつまれゆけり
夜は夜の仕事にまぎれ日中にありたることのなべて思はず
吹き降りの雨となりつつ夜に聴けば風の声のみ折り返しくる
印度更紗の布をひらきぬ目に見えてはかどる仕事こよひはしたく
畳一枚が持てるほどよき大きさに一枚として見つつ驚く
渦なして中心のなき思ひよりふと抜け出でて夜明けを眠る
輪郭のほほけて夢にあらはるるまでに古りたり鍵のゆくへも
魚の群れに混りゐたれば人間のわが名呼ばれて大き口あく
百合活けて壺のおもたき日と気づく顎に触れたる花のつめたさ