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目録ID ku012036
タイトル. 版. 巻次 雪娘
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短歌
雪娘
汗あえて通ふといへどこの夏を繃帯一つわが巻きをらず
人数のほどよく乗れる昼のバス目の化粧濃き少女のゐたり
こはされてゆく店のありふるびたる招き猫などいかになりけむ
雲の秀のいつしか崩ればらばらの珊瑚のかたちに浮きて茜す
鉄橋を渡り切りたる列車見ゆかすかに昇り勾配なして
おが屑をかき分けて何も出でて来ぬ夢ながながと見て手をひらく
収拾のつかぬ思ひにあり経しが今朝は木槿の白一つ咲く
歌舞伎座の舞台ならねば坂の上ただ音もなく雪降りゐたれ
亡き父の懐中時計出でて来ぬ銀の鎖はいつしかあらず
防虫加工してあるといふ布を裁つ新しきものにもなじみてゆかむ
神経の接ぎ目接ぎ目の痛む日かパンタグラフは火を噴きて過ぐ
詫びられて済むことならずクーラーに冷やされてゆく魂までも
素通りのためらひもなく灯ともしていきいきとゆく回送のバス
いつとなく雨はあがれり前山の霧抜きて立つ三角帽子
太々と何のグラフか上昇しやまぬ朱線を見て夢のなか
辻褄をあはせてすむとも思はねどくらがりに降る音のみの雨
夜の更けにものを食みゐて兵量の尽きなば果てむ戦の如し
ふるさとは城のある町ゆくりなくジョギングコースとして映されぬ
雪の日はまろびて遊び頬赤き雪娘なりし遠き昔よ
亡き人の真珠の耳輪手にのせてかなしみはふとわれを清くす
夏の服を仕舞はむとしてうすものを透かしくる如きかなしみに会ふ