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目録ID ku012037
タイトル. 版. 巻次 森の匂ひ
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短歌
森の匂ひ
光りつつへだてあひつつ花びらは雲のうろこのやうに降りくる
両手もてふさぎし耳にひとしきり遠き故郷の吹雪の声す
一枚の皮膚と思ふに目の前を黄色に染めて風の吹く日よ
雨の日の津和野はわれの思ふのみ滴を切りて傘の始末す
選びがたき思ひにをればかかはりもあらぬ埴輪の筒などが見ゆ
言葉を持つ不幸に思ひ至る日をはればれと舞ふ銀杏の落ち葉
急行のとまらぬ駅と寂しみて待つ間に逢魔が時も過ぎなむ
掃きよせて砂のまじれる葉を燃せば森の匂ひをたててくすぶる
何により山鳩などに生まれしや問ひやまず啼く一羽木にゐる
あくる日の仕事のことをわれの言ひこころさもしくなりて別れき
眠る前のやさしさのなか青蚊帳の麻の匂ひを久しく嗅がず
次々に疑ひばかり湧く日にて人の掛けおくコートが赤し
メラミン樹脂塗られて固き机とぞ手を置けば手のかたちに曇る
ルワンダのコーヒー匂ふゐながらにたのしむことの限界として
ゆく末に賑はひあれよ群書類従二十四巻今日は届きぬ
しめ繩の張られてゐたる片隅の遠き記憶のなかのくらがり
山の端に今し浮く雲平面に叩きつけられし如きかたちす
おもむろに芯に近づくけはいにも身動きならぬ果実かわれは
骨格の模型垂りゐし標本室夢に見て今も入りてゆけず
抜けおちて隙間だらけの羽根を持ち谷の一つも越え得るらむか
あきらめて忘れて今は眠らむに重たき腕を両脇に置く
この秋の終りの蜆蝶ならむ草のもみぢにまぎれつつ飛ぶ
葉がくれにくぐもり咲ける枇杷の花思ひ自虐に似つつ仰ぎぬ
年を経て狭められたる庭園にしろじろと立つ噴水の穂は
鹿の角のやうに開きし枯れ枝に間違ひならむ黄の花の咲く
感情のひろがる幅の見えやまず船が分けゆく水脈を見をれば
きれぎれになりても生きむなど思ひ眠りしのちはゆくへ知られず
堕ちてゆくこころまざまざ見し夢に憎みゐたりき人の背中を
てのひらに残る記憶よ霧の夜の石のてすりのつめたかりけり
外套に首をうづめて人波にまぎれゆきたる咎びともゐむ
夕刊を取りこみドアの鍵一つかけてしまへば夜の檻のなか