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目録ID ku012054
タイトル. 版. 巻次 三叉路
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短歌
三叉路
雨のなかに赭く錆びゆく朴の花昨夜の夢さへわれをあざむく
ハイヤーを洗ふホースがくねりゐて予感するどし朝の駅前
対きあひてプルニエの皿あけしのみ掠むるやうにバスは発ちゆく
住みがたき町と思ふに三叉路は風を呼びつつ風鈴売らる
漂鳥の自在を阻む何あらむ或る日は重く地にゐる鳩ら
印章をあつらへに入りて小暗きに癖つよき文字カードに記す
タール煮るかたはら過ぎて襟暑し何時訪ひ来ても騒ける町
ワンピース着せ終へて腕を嵌め込みつ店員はマネキンより丈低し
冷却器の音する茶房に落ちあひてヒールの泥もいつしか乾く
改宗の経緯を告げて来し手紙精しく剖きて見たき字句持つ
朱を塗りて仕上げしグラフみづからの信じ得ぬ日も人は信ぜむ
苗床のビニールを煽る風の音と聴きすましつつながく醒めゐる
わが岸をしきりに抉る流れあり夜更くれば風の音を伴ふ
三椏は毛深き花と触れて見つ夢の続きのしぐさのごとく
新しき木鋏鳴らし薔薇切れば音叉の立てし音がかへり来る
地取りして縄を矩形に張りゆけり梅の落ち実はたれも拾はず
風折れの木の折れ口に抗ひの痕をとどめてするどし幹は
田から田へ落とす水音おもむろに養されて来しわれかも知れず
夜の水は土手の切れめに光りゐて未詳の個所を嘗て怖れき
溶闇に転換さるる場面にて映画ならねばながながと会ふ
音量を下げつつ待つに鼓手の身振り映して久しきテレビ
蛇の卵探すと森の少年ら風折れの木を跳びてすばやし
伴はれ旅ゆかむ日を思ひ来て楓の花の降る道に出づ
新しき銃と散弾買ひ込みて山に帰りしその後を知らず
遺されし貼絵は持つ月明に半旗のやうな葉を垂るる木々
墓碑銘をきざむドリルを支へゐて痙攣のやうに人の手うごく
川底の石は光ると渡り来て息荒く貨車の過ぎゆくに遭ふ
おのづからつながる頸を夜々に待つ顔無き埴輪机に置きて
鷺草の花の無数がはばたくと夕陽の河原騒立ちやすし
柱像の双手が支へゐし屋根の重み夜更けてわが肩に来る