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さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―
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全短歌(10791首)(資料グループ)
回顧一年(目録)
/ 11652ページ
目録ID
ku053013
タイトル. 版. 巻次
回顧一年
タイトル. 版. 巻次(カナ)
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歌と随筆
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/ 11652ページ
関連目録
歌と随筆
回顧一年
目ざめてはつなぐ夢かなかかる時ひくくせつなく春雨の降る
ふと觸れし君のをゆびの感觸に受けし動揺忘れかねつも
れんぎやうの花しだれ咲く夕暮れをしだれてなるかわが戀心
梅一輪背戸に咲きそめ夕されば又ひとつともすわが愛慕の灯
肉親のきづなあやしくまつはりてわが華やぎを暗からしむる
わが窓のヒヤシンス匂ふ宵なるを道暗ければ訪う人もなき
寂しくて花の山仰ぎ地をみつめ夕陽の土手を吾はたどりぬ
春草のもえて青める山路來て疎林出でし時なみだこぼれたり
一つ歎きに何たゆたひてあるべきぞ夕陽眞赤く落行きにけり
ぎりぎりに生きて一日の暮れつかた夕燒け雲は燃えてゐるなり
わが夫の生くる限りは生き遂げむわが命ここに意義定まりつ
下枝にほの咲く花も卑下を捨てて眞日に向ひて咲き誇るべし
靜かなる幸福もある世ならめど波瀾に生くる身を悔いざらむ
個の嘆き言はざらむとす秋の日の道にこぼるる白萩のはな
きららめくめをとの星とあらしめむ夫と吾とは勵みあひつつ
論点は果てなき齟齬をくり返し夜更けて夫も疲れそめしや
春の夜の更けて明るき灯の下に笑みつつぞ吾ら論じつきなく
江戸文學に感傷性は無しと言ひありと言ひ張り論果てぬ吾ら
向つ家の時計は一つ低く鳴り終へて新しき論據を吾は求めつ
母ひとり遠國にをきて吾と生くる夫はひそかに淋しからずや
執すれば人はかなしも疑心とふわびし思ひも身に知りそめつ
いささかの疑心なれどもはかなくて日暮れショパンを奏でてぞ見つ
人と人と相容れがたき性格はすべ無けれども泣く日もありぬ
幾たびか逆らひては泣く愚かさや妻はもだしてあるべけれども
この家ゆのがれゆきても今宵よりすがるべく宿す面影もなし
次々に人を憎しみ昨夜遂に自己嫌惡まで至りつくしき
自己嫌惡よりぬけ出でなむと身悶えて眠れざりけり昨夜は夜すがら
憤り烈しき時にふと見たる夫のひとみの悲しみの翳
憤り烈しかりしがいつのまか外の面は青き月夜となりぬ
愛燐の思ひ烈しき極まりに夫はげきして吾をなじるか
音もなくはぐくみ居らむ童身をみごもるに貧しき母なり吾は
すべもなく涙せし朝のくりやべにひそかに覺えし胎動あはれ
激痛の呻きのまにも期して待つうぶごゑは無し遂に無かりき
相ともに生きがたかりし宿業に母を地上におきて逝きしか
現し世の乳の香一つ吸はずして寂しからずや吾兒のくちびる
若き父がひそかに吾兒にだかせやる赤き人形も吾を泣かしむ
さびさびと墓山みちをゆくならむ吾兒の柩に雪よかかるな
白衣着て淺く埋もれて墓山の吾兒寒からむと今宵寝らえず
夫に似し吾兒逝かしめてぼつ然と吾にめざめし母性ぞあはれ
父と母の夢なりがたき現し世を超えて吾兒は天がけりしか
病める日の窓はいつしか暮れそめて目あけては又閉づる思ひよ
まぼろしの君のかひなの虚しさに幾たびさめて吾やをののく
病み衰へし乳房かなしくふるへつつ燃えつつ今宵君によりける
身もたまも燃えて今宵を待ちにける病み妻吾や抱かれて泣く
骨ばみし肩のへを君にさはらせてをんな心はうれしさに泣く
重症三月よくぞ生き堪へしわが身よと春日あぶれば涙流るる
癒えそめの心樂しも野に出でゝ若菜つみつつ今日はひねもす
みづ色の羽織着て君と歩む思ひに春の氣流のゆらめく日かも
しのびやかな夜の氣流よ夫と吾と相寄る低き灯のゆれにけり
夕ぐれは生くる戰ひもしばしやめて赤くとぼさむ二人寄る灯を
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歌と随筆
回顧一年
目ざめてはつなぐ夢かなかかる時ひくくせつなく春雨の降る
ふと觸れし君のをゆびの感觸に受けし動揺忘れかねつも
れんぎやうの花しだれ咲く夕暮れをしだれてなるかわが戀心
梅一輪背戸に咲きそめ夕されば又ひとつともすわが愛慕の灯
肉親のきづなあやしくまつはりてわが華やぎを暗からしむる
わが窓のヒヤシンス匂ふ宵なるを道暗ければ訪う人もなき
寂しくて花の山仰ぎ地をみつめ夕陽の土手を吾はたどりぬ
春草のもえて青める山路來て疎林出でし時なみだこぼれたり
一つ歎きに何たゆたひてあるべきぞ夕陽眞赤く落行きにけり
ぎりぎりに生きて一日の暮れつかた夕燒け雲は燃えてゐるなり
わが夫の生くる限りは生き遂げむわが命ここに意義定まりつ
下枝にほの咲く花も卑下を捨てて眞日に向ひて咲き誇るべし
靜かなる幸福もある世ならめど波瀾に生くる身を悔いざらむ
個の嘆き言はざらむとす秋の日の道にこぼるる白萩のはな
きららめくめをとの星とあらしめむ夫と吾とは勵みあひつつ
論点は果てなき齟齬をくり返し夜更けて夫も疲れそめしや
春の夜の更けて明るき灯の下に笑みつつぞ吾ら論じつきなく
江戸文學に感傷性は無しと言ひありと言ひ張り論果てぬ吾ら
向つ家の時計は一つ低く鳴り終へて新しき論據を吾は求めつ
母ひとり遠國にをきて吾と生くる夫はひそかに淋しからずや
執すれば人はかなしも疑心とふわびし思ひも身に知りそめつ
いささかの疑心なれどもはかなくて日暮れショパンを奏でてぞ見つ
人と人と相容れがたき性格はすべ無けれども泣く日もありぬ
幾たびか逆らひては泣く愚かさや妻はもだしてあるべけれども
この家ゆのがれゆきても今宵よりすがるべく宿す面影もなし
次々に人を憎しみ昨夜遂に自己嫌惡まで至りつくしき
自己嫌惡よりぬけ出でなむと身悶えて眠れざりけり昨夜は夜すがら
憤り烈しき時にふと見たる夫のひとみの悲しみの翳
憤り烈しかりしがいつのまか外の面は青き月夜となりぬ
愛燐の思ひ烈しき極まりに夫はげきして吾をなじるか
音もなくはぐくみ居らむ童身をみごもるに貧しき母なり吾は
すべもなく涙せし朝のくりやべにひそかに覺えし胎動あはれ
激痛の呻きのまにも期して待つうぶごゑは無し遂に無かりき
相ともに生きがたかりし宿業に母を地上におきて逝きしか
現し世の乳の香一つ吸はずして寂しからずや吾兒のくちびる
若き父がひそかに吾兒にだかせやる赤き人形も吾を泣かしむ
さびさびと墓山みちをゆくならむ吾兒の柩に雪よかかるな
白衣着て淺く埋もれて墓山の吾兒寒からむと今宵寝らえず
夫に似し吾兒逝かしめてぼつ然と吾にめざめし母性ぞあはれ
父と母の夢なりがたき現し世を超えて吾兒は天がけりしか
病める日の窓はいつしか暮れそめて目あけては又閉づる思ひよ
まぼろしの君のかひなの虚しさに幾たびさめて吾やをののく
病み衰へし乳房かなしくふるへつつ燃えつつ今宵君によりける
身もたまも燃えて今宵を待ちにける病み妻吾や抱かれて泣く
骨ばみし肩のへを君にさはらせてをんな心はうれしさに泣く
重症三月よくぞ生き堪へしわが身よと春日あぶれば涙流るる
癒えそめの心樂しも野に出でゝ若菜つみつつ今日はひねもす
みづ色の羽織着て君と歩む思ひに春の氣流のゆらめく日かも
しのびやかな夜の氣流よ夫と吾と相寄る低き灯のゆれにけり
夕ぐれは生くる戰ひもしばしやめて赤くとぼさむ二人寄る灯を