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目録ID ku061001
タイトル. 版. 巻次 まなうらの像
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短歌研究
まなうらの像
虐げらるる程強くなる女よといふ噂歸り来てひとり炭火をおこす
言傳てもちて來し友の幼な子わが炊ぐ釜の小さきを驚きて言ふ
殻とぢて竦める如き日のわれを不意に來し母に見せてしまひぬ
別れ住む間さへ苛まれゐる身よ落葉に埋れてしまひたくなる
散漫になる夜の心まどろめば聖アンネの像がまなうらに來る
わが教へし舟唄今も忘れずと何故書き來しや母となれる教へ子
跪きて砂漠に祈るターバンの群の一人たりしが汗ばみてめざむ
焦點となすを懼るるわがこころ賜びし詩集の背文字をみつむ
アンカットのまま重ねおく詩集一つ徒勞とも思ふわが仕事がふえゆく
みづからの道狭めつつ生きゆくや亞流と言はれむを何より怖る
氣づかぬ間に陽氣にものを言ひてしまふもう一人のわれを怖れて思ふ
舞曲のレコードかけつつ夕餉なす放恣とも思ふかかる孤獨の處理は
わが夢に夜々ひらく廣野を翳のごとよぎるはいまだたれとも知れず
閉ぢこめられゐて秘かに爪とぐ如き身と疊掃きつつ寂しき日なり
何事も抽象化してしまふわれと思ふ充たされゆくやながき空白も
悲劇も今はわれの中に消化し去られつと思ひひそめて或る夜はゐたり
よるべなく旅ゆくこころ灣口にかかりて船は汽笛を鳴らす
わが中の循環に終らむ思慕と思ふ遠き山なみ見つつぞ歩む
今一つの超克を希ふわがこころ夜の靄の底に海は轟く
おのづからなる乖離を今は希ふ身に何をいざなふ遠き潮の音