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区制諸問題調査建議

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 明治三十四年(一九〇一)常設委員会が設置されるが、それに先立ち前年十二月二十日の区会で、区制諸問題調査についての建議書が提出された。建議者は花村三千之助で、宇野季吉富所広吉山崎孝太郎が賛成して建議者に加わった。「区制ノ施行日尚ホ浅ク区ニ於テ計営スヘキ事業甚多シト雖トモ左記ノ事項ハ之レカ設備計営最モ緊急ヲ要シ焦眉ノ急務ナラント信ス」として、区長が提出する議案に先だって提出された。建議は第一部一二項目、第二部一〇項目と二部構成である(後出)。この内、都市計画的行政に直接関係する第一部の第五項、第二部の第一、四、八、九、一〇項を見てみよう。
 それぞれの趣旨は次のようになっている。第一部第五項について、区の経済収入にもなるとして敷地が大きく空いている官有地の貸下を受けて、さらに区民に貸し下げれば、戸数増加にも区の収入増加にもなるということである。第二部第一項については、道路に付属し、雨水を落とす小下水の完全を図ろうとするものである。同第四項については、目下の公園候補地として円山と中島遊園地を指摘している。同第八項については、軌道による交通遮断の不便と危険を指摘し、鉄道会社に空架橋を設置するよう迫るものである。同第九項については、計画中絶中の馬車鉄道の将来の出願への対応のために調査することである。同第一〇項については、将来の家屋密集への対応のため構造の制限法を設けることの調査である。(小樽新聞 明33・12・25、26)
 建議案審議後、調査委員一三人を選出し、調査終了予定の明年一月十八日まで区会を延期した。延期の最中に調査委員等で調査したようで、この審議は一月二十四日の区会で行われた。この報告書には建議案と報告が併記されている。
  第壱部
 区制中改正ヲ要スル件(編注・建議案) 是レハ個人トシテ国会ニ建議スヘキモノトシ撤回ス(編注・報告)
 区有財産増殖ノ件 是レハ常設委員ヲシテ充分ノ講究ヲ要スルコト
 区債償却ノ方法ヲ講スル件 是レハ常設委員ニ於テ講究ノ事
 区ノ区域変更ノ件(豊平、元村、円山、山鼻、苗穂、各村ノ一部編入ノ件) 是レハ理事者ニ於テ已ニ計画ノ成リタル以テ撤回ノ事
 区内ニ於ケル官有地ヲ調査シ之レカ貸付又ハ払下ヲ受ケ区ノ収入ヲ計ルノ件 是レハ本会ニ於テ色別図ヲ修正シタルヲ以テ撤回ノ事
 但理事者ニ於テハ区ノ内外ヲ問ハス官有地ニ対シ区ヘ下渡シ若クハ払下ノ事ヲ熟考注意スル事
 公立病院経済ノ基礎ヲ鞏固ニスルノ件 但シ常設委員ハ区ノ歳入ヲ出ニ付テハ常ニ注意スルモノニ付撤回ス
 区税賦課徴収ノ方法ヲ改正ノ件 是レハ区会ニ於テ決議シタルニ依リ撤回ス
 各小学校経済ニ関スル件
 将来私立中学校設置ノ場合相当ノ補助ヲナス件
 幼稚園ノ件 右三件ハ既設ノ学務委員ニ於テ当然調査スヘキモノニ付撤回ス
十一 事務ノ繁ヲ省略スルノ件 是レハ理事者ニ於テ充分注意ナス事
十二 有給吏員俸給ニ関スル調査ノ件 是ハ撤回ス
  第二部
 区内ノ道路溝渠ニ関スル設計調査ノ件 是ハ三十五年度通常会迄ニ者大体ノ計画ヲナシ報告ヲ求ムル事
 区役所家屋ノ件 撤回
 衛生ニ関スル件 是ハ常設委員ニ於テ新ニ調査ノ事
 公園地設備ノ件(円山及遊園地等) 是ハ常設委員ニ於テ講究ノ事
 招魂碑ヲ公園地ニ移スノ件 是ハ現在ノ儘存置スルヤ若クハ移転スベキカ常設委員ニ於テ調査ノ事
 共同墓地拡張ノ件 是ハ常設委員ニ於テ講究ノ事
 消防ニ関スル件 撤回
 炭礦鉄道会社ヲシテ区内ノ踏切ニ空架橋ヲ設置セシムル件 是ハ当会ニ於テ炭礦会社ノ設計ヲ是認スルヤ否決定スル事
 将来市街馬車鉄道特許ノ可否 是ハ撤回
 家屋構造制限ニ関スル調査ノ件 是ハ常設委員ニ於テ講究ノ事

(区会決議録 明34)


 区会の議事録には、第一部については、調査会の報告通り可決とある。第二部については、第一項以外については報告通り可決されているという。また第一項については、常設委員会に付すべき意見が出て、その意見で決定している。第五項については消滅と記している。そのため『区会決議録』(明34)中の報告書欄外に朱で撤回とある。さらに第二部第八項については、全項目議決後に「議ニ掛ケルノ意ナルヤ」と質問が出た。当局者から「当会ノ席ニ於テ協議ニナルト云フニ過ギス」と指摘された。しかし足立議員から、会社でも至急のことであるから、常設委員に付託するよりも同席議員中で可否の回答ができるくらいまで協議しておき、委員会注意通りにしたい旨の意見が出され、その意見通りで可決された。最後に第一〇項については議論されたという記述がないので、報告通り可決されたようにも思われるが、報告書欄外に撤回の朱書がある(同前)。
 この調査建議に基づく委員会の審議回答を見るかぎり、この建議は区の政治方針を決めるものというよりは、新たにはじまった区政のもとで、どのようなことが問題となるのかを確認するために提出したものといえる。したがって委員会の報告そのものも今後政策をすすめていく上で、どこで調査や考察をするのかという交通整理的な回答になっている。