野菜作の農家は、畑作を中心とする農家とは大きく性格を異にする。それは、小規模生産でありしかも手作業中心の経営である。野菜の作付農家の戸数は把握できないが、大正初期の調査によると、
札幌支庁全体で野菜の専業農家は二町以下で五八戸、二~五町で二二戸と合計八〇戸であるから、多めにみてもその総面積は一五〇町に過ぎない(産業調査報告書 第六巻)。札幌郡の野菜作付面積は大正期には一〇〇〇町を超えるから、残りの八〇〇町が一戸一町未満の複合経営農家によって占められるといってよい。仮に八〇〇戸とすると農家の一〇パーセントが野菜作付を行っていることになり、都市近郊的性格が強まっていることがわかる。
札幌区の野菜専業農家の事例によって、当時の野菜農家のイメージをふくらましてみよう。表24によると、この経営は作付面積が三町であり、一一種類の野菜を作付けている。たまねぎが一町でもっとも多く、キュウリとかぶが五反であり、その他になす、キャベツ、馬鈴薯、葱、ゴボウ、にんじん、大根、うりは一~二反である。なすやキュウリ、かぶなどの果菜類で反当の労働投下量が多く、より手間がかかることがわかる。化学肥料は過燐酸石灰のみであり、やはり果菜類に重点的に投入されている。ここで注目されるのは人糞であり、たまねぎを除く全ての野菜に投入されている。大阪や東京などの都市近郊の野菜地帯でも同様であるが、野菜用肥料としては人糞が一般的であった。もちろん自家用のみでは不足であり、市街地から運搬して施用したが、これが重労働であった。とはいえ、この時期には、都市と農村のリサイクルがこのようにして行われていたのである。この経営の総収入は一一九五円で、支出は八六三円であったから、差額は三三二円であり、かなり高い水準である(北海道農業発達史)。
| 面積 | 労働力 | 過燐酸 | 人糞 | 種子 |
たまねぎ | 10反 | 320人 | 円 | 円 | 50.0円 |
なす | 2 | 92 | 2.6 | 3.6 | 1.2 |
キュウリ | 5 | 220 | 3.3 | 9.0 | 7.5 |
キャベツ | 1 | 31 | 0.7 | 3.0 | 0.4 |
かぶ | 5 | 215 | 1.3 | 9.0 | 3.5 |
馬鈴薯 | 1 | 11 | | 1.8 | 3.0 |
葱 | 1 | 11 | | 3.6 | 2.5 |
ゴボウ | 1 | 21 | | 3.0 | 1.4 |
にんじん | 2 | 32 | 1.3 | 6.0 | 4.8 |
夏大根 | 1 | 16 | | 3.6 | 0.8 |
うり | 1 | 35 | | 1.8 | 1.0 |
計 | 30 | 1,004 | 9.2 | 44.4 | 76.0 |