一期は御伽話、冒険小説、草双紙(八犬伝、太閤記等)、二期は興味小説、即ち掬丁、幽芳、水蔭、弦斎等の作物、三期は逍遙、鴎外、漱石等の作物、新進作家の小説、翻訳物、脚本物
このうち一、二期の読者は女性、青年、官吏、小中学生で、三期のそれは漱石の作品を除き、大学生(東北帝国大学農科大学)に限られていた。当時、性別や階層を超えて多くの読者を獲得した作品は、徳富蘆花『寄生木』、尾崎紅葉『金色夜叉』であった。また、四十二年頃からよく読まれている作品として、福本日南『元禄快挙録』、島崎藤村『春』、黒岩涙香『噫無情』『巌窟王』、夏目漱石『我輩は猫である』『三四郎』『それから』、田山花袋『妻』などを挙げている。これらは主に大学生に読まれた。人気作家の第一位は夏目漱石である。それに黒岩涙香、徳富蘆花が続いている。自然主義文学の田山花袋や島崎藤村は大学生に人気があり、泉鏡花、二葉亭四迷、森鴎外の作品は一部の読者に限られていた。
独立社では多いときには一日八〇冊を貸し出していたという。これらの作品の大半は、西欧文化との接触を通して形成された近代的自我が、日本の社会の現実と衝突するありさまを描こうとしていた。札幌区民はそこに自己の姿を重ね合わせたに違いない。
同じ時期、札幌区民に最も人気があった雑誌は、博文館、実業之日本社発行のそれである(小樽新聞 明43・9・13)。博文館では『少年世界』『少女世界』『中学世界』『太陽』など、実業之日本社では『婦人世界』『実業之日本』などがこれに該当する。分野別に見ると、総合誌では『中央公論』『日本及日本人』、文芸誌では『ホトヽギス』『早稲田文学』がそれぞれ一定の読者を獲得していた(同前)。