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医科大学設置問題

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 これと前後して札幌に医科大学を設置する問題が道会で論じられた。札幌区は国立理工系大学を誘致し、既設の農科大学と合わせ東北帝国大学から北海道大学の独立を目指し、早くから関係者に働きかけていた。ところが「偶々、医科大学新設ノ議起リ、在京中ノ佐藤農科大学長ト俵北海道庁長官トノ間ニ意見ノ合致ヲ見ルニ至リ」(札幌区事務報告 大5)、札幌区に建設費の寄付を求めてきたのである。
 理工系を医科に変えた理由を道庁長官は「札幌病院ハ、是ガ三十万円カ四十万円ノ金ヲ以テ、彼処ノ土地デ以テ改築ヲスルト云フコトガ、是ハ大学問題ト離レテ計画サレ、又実行サレムトシテ居ルノデアル。若モデス、若モ此ノ計画ガ三四十万円ノ金ヲ掛ケテ札幌病院ノ改造ヲシタナラバ、将来医科大学ヲ造ル場合ニ於テ、如何ナル状態ニ立ツカト言ッテ見ルト、結局ノトコロ札幌区立病院ハ医科大学ガ立ツナラバ、医科大学ノ附属病院ニナルベキ運命ヲ持ッテ居ルノデアル」(北海道会議事速記録 第一六回通常会)と断言する。すなわち、広く全道民が利用している区立病院を国に寄付させ、大学附属病院とすることにより、設置費を節減できる。あわせて札幌区が改築資金として積立ててきた約四〇万円を医大開設のため国に寄付させようとしたのである。
 これに対し「札幌区病院ヲ廃スルコトハ、道民ノ幸福ヲ殺グモノデアルト云フ声ガ非常ニ起ッテ居ル……札幌区ノ自治体ノ平和ヲ破ル」(同前)ものだとの意見が出た。札幌区会は区立病院を国に寄付することはできないが、総合大学誘致のために「医科大学設置費ノ内、金百万円ハ本区ニ於テ引受ケ、国庫ニ納付スルモノトス」(札幌区会会議録 大5 第八回)る決議をするに至った。
 この背景を道庁は「札幌区内ニ農科大学ガ宅地トシテ貸付ケテ居ル所ノ土地ガアル。其ノ土地ヲ札幌区ノ基本財産トシテ、之ヲ札幌区ガ公債ヲ募集スルカ何カシテ買収ヲスル」と説明するが、「土地ヲ札幌区ガ引受ケルト云フコトハ非常ナル苦痛デアル……札幌区ノ経済ノ基礎ヲ危クスルモノデアル」(北海道会議事速記録 第一六回通常会)との反対意見が根強い。この年、札幌区一般会計当初予算が三一万円程であるから、一〇〇万円の納付がいかに大きい負担であるかわかろう。道庁は札幌区会の問題であり道会の論議になじまぬとしたが、阿由葉宗三郎議員(札幌区会議員でもある)は「今日、札幌区ガ静ナルコト林ノ如ク寂寞トシテ居リマシテ、極メテ静平ノヤウデアリマスルケレドモ、若シ之ヲ仔細ニ観察シテ見マスト、尺取虫ノ伸ビントシテ縮マッテ居ルガ如ク、若クハ活火山ノ噴火セントスル場合ニ於テ、静寂ヲ保ッテ居ルト同一ノ有様」(同前)と、区と道庁の関係を心配した。