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無産政党の視察取締

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 昭和三年二月の普選法による最初の衆議院議員選挙に際して、労働農民党社会民衆党の選挙活動が盛んになるのに対応し、特高課は各警察署を督励して、その情勢把握に努めた。札幌署では二年末で管内の労働農民党員一八人、同党支持団体員七二人と報告している。「突然此ノ種政党ニ共鳴スル者現レ案外多数ノ得票ヲ見ルヤモ計リ難シ」(内務大臣宛報告 総選挙ニ於ケル無産政党ノ状況ニ関スル件 第一報 昭3・1・27)という警戒感をもった特高課では、各警察署に対して次のような取締の指示を出している。
衆議院議員総選挙ニ対スル無産政党ノ選挙運動ニ対シテハ已成政党同様厳正公平ナル取締ヲ加フヘキハ勿論ナカラ只選挙運動ニ藉口シ共産主義ノ宣伝過激ナル労働争議若ハ小作争議ノ煽動其ノ他危(ママ)矯ナル言動ヲ為ス者ニ対シテハ治安警察法第十条(弁論中止)同第十六条(文書頒布ノ禁止等)其ノ他ニ依リ厳重取締ノ方針ニ有之候条(管下各警察署ニ於テハ右ニ依リ仮借ナク取締可相成)
(無産政党ノ選挙運動ニ関スル件 昭3・1・26)

 この「厳重取締ノ方針」とは具体的には、無産政党事務所などに対する視察強化や幹部の内偵・尾行の強化のほか、「札幌北八条中央説教所において労農党山本候補の政見発表演説会が開催せられたが同候補の演説中健康保険法の組織に言及するや直に臨監の千葉警部補より中止を命ぜられ聴衆総立となり紛糾を極めあはや同候補の検束を見んとした」(樽新 昭3・2・7)とあるような演説会や文書頒布の取締である。