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田部検事の見解

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 以上、昭和前期を中心としながら北海道における小作争議の発生状況を概観してきたが、こうした争議の背後にある北海道の地主・小作関係の特質について、旭川地方裁判所検事田部顕穂は、「北海道に於ける農村の事情並に農民運動の情勢」(司法研究 一四輯 昭6)と題する論文の中で次のように述べている。
 まず地主は、各府県の場合「先祖代々其農村付近に居住し、小作人も亦代々相継いで小作し、地主小作関係に歴史的関係」が存在するのに対し、北海道では、「農場主は未開地に移住民を募集し開墾小作せしめ、管理者をして土地管理を為さしめ、其農村付近に居住せず、所謂不在地主にして殆んど全部の小作人は地主の顔を知らざる状態なるを以て、地主小作人間の情誼親疏の程度各府県に於けるものと自ら異」なっていたこと、これに加えて農場主には、農業に未経験な商工業者や地方自治団体が多く含まれていたことから、農場の管理が事務的で「人情の機微」に触れるような配慮が欠けていたという。
 一方、小作人の側であるが、その多くは「郷里を捨て移住し来り、辛苦艱難を経克く困苦欠乏に堪へ土地を征服し、不毛の地を豊穣地に開墾したる功労者」との信念と自負心から、「北海道国有未開地処分法」により無償で土地を取得した地主への不満や反感は、根強いものがあるという。