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刑務所受刑者による北海道開発名誉作業班

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 昭和十三年(一九三八)四月に国家総動員法が公布され、十四年九月には、新規小学校卒業者や朝鮮人などの動員を含む「昭和十四年度労務動員計画実施要綱」が閣議決定された(十七年から国民動員計画)。同計画の中に刑務所受刑者は組み込まれてはいなかったが、労働力増強のため、多数の国内刑務所受刑者もまた、戦時「人的資源」として軍工事などに動員された。当時苗穂町所在の札幌刑務所からは、十三年五月、千歳海軍第一飛行場工事に出役し、同年六月から十一月まで行われた美幌海軍第一飛行場建設工事には、全国五五カ所の刑務所から一二六〇人が動員され、札幌刑務所からも二〇〇人が整地作業に出役した。その後、軍工事の拡大により、通常外役の江別町角山農場開墾作業や江別・対雁の河川工事などのほか、札幌陸軍第一飛行場(丘珠飛行場、昭17~19)や仙台船岡火薬廠建設(昭18~)にも出役し、戦争末期の十九年三月には受刑者二〇〇人からなる室蘭造船報国隊(日の丸造船報国隊)が結成され、米軍の空襲を受けた室蘭で、七月二十二日まで破損船舶の補修作業などに従事した(戦時行刑実録)。
 敗戦により戦時体制はすべて解除されたが、この間に道外刑務所の約四〇パーセントが損傷を受け、さらに、その後の収容者の増加も重なって各刑務所は過剰収容の様相を呈した。そこで法務省が中心となり、「受刑者労務の国家的利用」に関して関係省庁や北海道庁との懇談会や協議が重ねられた結果、GHQの助言もあって二十三年六月、通常の通役や泊まり込み形態による構外作業組織とは別に、大規模な構外作業のための「北海道開発名誉作業班」が設置されることになった。性格及び主たる目的は、北海道庁などが発注する土木工事に、「名誉作業班処遇規程」に基づいて、①全国の刑務所から優秀受刑者を厳選して派遣し、②作業成績により刑期を短縮して、原刑務所復帰とともに仮釈放させるというものであった(武田武久 北海道開発名誉作業班)。
 二十三年度から、札幌のほか旭川・帯広・網走・釧路・函館の道内各刑務所が主管する出役場所として、道内各地で初年度二七カ所・二年目三一カ所・三年目二三カ所が計画され、延べ八〇九五人の受刑者が各種土木工事に従事し、札幌刑務所が主管した出役場所及び出役人員は表13のようであった。多くは僻地に設置されたが、当時、札幌刑務所で編成された受刑者による劇団(SK劇団)が、慰問のため道内の名誉作業班をくまなく巡回興行し、受刑者からはもちろん村民からも拍手大喝采を浴びたという(重松一義 北海道行刑史)。
表-13 北海道開発名誉作業班出役状況(札幌刑務所主管分)
年度出役場所事業の内容出役人員
昭23年度札幌郡白石村厚別川改修工事150 
空知郡栗沢村清真布川新設放水路開削130
岩見沢市西川向幾春別川上流部新水路開削100
空知郡奈井江村三井奈井江鉄道工事新設道路250
岩内郡小沢村小沢村中平十一号開拓道路100
有珠郡壮瞥村昭和新山噴火による新道開削100
夕張市清水沢清水沢、遠幌間隧道工事150
勇払郡厚真村厚真川改修工事150
虻田郡豊浦町道路改良工事100
沙流郡平取町道路改良工事100
昭24年度石狩郡当別町開拓用簡易軌道工事100
夕張郡遠幌道路改良工事150
空知郡栗沢村清真布川改修工事150
札幌郡白石村厚別川改修工事150
有珠郡壮瞥村道路改良工事200
沙流郡門別村道路改良工事100
白老郡白老村道路改良工事100
勇払郡厚真村厚真川改修工事150
岩見沢市西川向幾春別川改修工事100
夕張郡長沼村水温上昇工事100
昭25年度札幌市白石町厚別川・野津幌川改修工事100
空知郡北村排水新設工事100
空知郡幌向村排水新設工事100
夕張郡長沼村甫六号地の剣淵川改修工事100
勇払郡厚真村厚真川改修工事150
沙流郡門別村道路改良工事100
虻田郡豊浦町道路改良工事100
空知郡幌加内村道路改良工事200
重松一義『北海道行刑史』所載表より抜粋,一部加工。

 折から行政整理や企業整備問題が全国的に浮上していた。昭和二十四年には「緊急失業対策法」が制定され、地方自治体による公共事業との整合性の問題も派生した。全国各刑務所における過剰収容状況の改善や、通常の構外作業場の充実なども受けて、行刑史上も画期的な開発名誉作業班は、昭和二十五年度をもって廃止された。