明治四十二、三年、当時の区長青木定謙氏は、本市将来の発展に伴う財政需要の膨張を考慮し、この財政緩和の一方策として、基本財産造成の急務であることを認め、それには少くも年々一定の収入を予定し得て、且国家産業に大きな効果をもたらすべき造林事業が最も適当で堅実な方法なりとして案出せられたのが、抑々西山造林の始まりなのである
(市有林の概要 昭21)
ほぼ同じ時期に、道庁が区町村の基本財産の充実を図るために、第二種官林を譲渡して造林事業を奨励する方針を樹立するといった動きがあり、これに即応して、大正元年十二月、札幌区は、札幌郡豊平町字真栄・有明の国有未開地七八五町歩余の払い下げを出願し、翌二年五月に許可された。札幌区は、全道で唯一の造林会社であった、札幌郡手稲村所在の北海道造林合資会社に造林一切の事業を請け負わせて、同年七月、事業に着手、十一年に全区域の植栽を完了した。
これが第一期造林計画であるが、さらに同年九月、隣接する国有未開地二一八町歩余の払い下げを出願した。翌十二年九月に許可されたことを受けて、ただちに第二期造林計画を樹立して事業に着手し、昭和三年に予定の植栽を完了した。一・二期の造林計画の実施によって林地総面積の九五パーセントを植栽したことになるが、植栽面積の八六パーセントをカラマツが占めた(表60参照)。
表-60 戦前における市有林造林事業の実績 |
(単位:町歩) |
区分 | 第1期 | 第2期 | 計 |
樹種 | (大2~11) | (大11~昭3) | |
カラマツ | 588.84 | 239.64 | 828.48 |
ドイツトウヒ | 89.32 | ― | 89.32 |
アカチャ他 | 42.61 | ― | 42.61 |
計 | 720.77 | 239.64 | 960.41 |
札幌市『市有林の概要』(昭21)による。 |
この間、造林地付近に所在する土地で、営林事業を進める上で必要とみなした私有地を買収し、林地の整理を行うなど管理や保育に努めつつ、防火線の開さくと林道の開設を行った。防火線は第一期に延長二万一五〇〇間、第二期に二五〇〇間、合計二万四〇〇〇間(四万三六三二メートル)を開さくして火防の万全を期した。木材の輸送と林内巡視のための林道も、多額の経費を費やして九五〇〇間(一万七二七一メートル)を開設した。
さらに、年の経過につれて除伐や間伐を行う必要に迫られるようになるが、昭和十二年、道庁から係官の派遣を得て、現地を詳細に実査した上でその後の経営の方針を確立し、それに基づいて翌十三年に最初の主伐を実施して一万四〇〇〇石を、また、カラマツ林の育成上最も肝要な間伐も同年以降に実施して一万一六〇〇石を、合計二万五六〇〇石(七一二五立方メートル)を得た。
十五年十二月、造林地に隣接する私有地三七一町歩余を買収して、事業の一大拡張を図った。これが第三期造林計画であるが、この結果、西山造林地は総面積一四〇〇町歩余の一大団地を形成することになった。十七年末に同計画は改訂されるが、その時点での造林地の概要を示せば以下のごとくであった。
ここで、戦前期における営林事業の収支を総括しておきたい。大正二年から昭和二十一年までの総収入は二四一万八〇〇〇円、総支出は一六八万九〇〇〇円、差引き七二万九〇〇〇円の黒字となっているから、基本財産の造成という当初の目的に照らせば、かなりの成果をあげたと評価できよう。
表61は市有林のうち、西山造林地(昭60 白旗山都市環境林と改称)の、二十年から四十一年までの営林事業の動向をまとめたものである。四十二年以降のデータが無いから断定することはできないけれども、次に取り上げる私有林をも含めた一般民有林全体の動向をも考慮に入れれば、全国や北海道の林業生産活動と軌を一にして、やはり四十年代に入るとともに森林伐採量、人工造林面積ともにペースがダウンし、やがて停滞ないし衰退していく徴候をこの表から読み取ることができるのではないだろうか。とくに造林事業は二十年代末がピークであり、その後は事業の規模が縮小していったことは明らかである。
表-61 西山造林地(白旗山都市環境林)の各種事業の推移 |
年度 | 伐採(m3) | 造林(ha) | 林道(m) | ||||
主伐 | 間伐 | 除伐 | 新植 | 補植 | 新設 | 補修 | |
昭20 | 6,123 | ― | ― | 8 | 35 | ― | 1,273 |
21 | 4,283 | 2,087 | ― | 50 | 40 | ― | 1,818 |
22 | 4,087 | 2,087 | ― | 50 | 10 | ― | 1,091 |
23 | 4,087 | 2,783 | ― | 45 | 10 | ― | 1,818 |
24 | 4,087 | 5,149 | ― | 60 | 40 | 3,636 | 3,272 |
25 | 4,175 | 2,087 | ― | 60 | 30 | 1,036 | ― |
26 | 4,035 | 2,087 | ― | 60 | 10 | 2,000 | ― |
27 | 3,896 | 2,505 | ― | 62 | 15 | ― | 680 |
28 | 2,783 | 1,670 | ― | 60 | 30 | 900 | ― |
29 | 2,783 | 1,392 | ― | 82 | 49 | … | … |
30 | 2,783 | 1,392 | ― | 41 | 47 | … | … |
31 | 2,226 | 1,392 | ― | 37 | ― | … | … |
32 | 2,226 | 1,113 | ― | 38 | 36 | … | … |
33 | 2,061 | 612 | ― | 55 | 10 | … | … |
34 | 2,482 | 514 | ― | 30 | 36 | ― | 2,850 |
35 | 830 | ― | 6,269 | 29 | 28 | ― | 11,462 |
36 | 2,470 | ― | 3,694 | 30 | 8 | ― | 4,520 |
37 | 3,056 | ― | ― | 23 | 24 | ― | 13,768 |
38 | 3,202 | 16,249 | ― | 24 | 22 | ― | 4,300 |
39 | 3,600 | ― | 10,000 | 20 | 24 | ― | 12,068 |
40 | 1,400 | 7,000 | ― | 4 | 25 | ― | 5,000 |
41 | 1,192 | 6,936 | ― | … | … | ― | 11,800 |
『事務概況』各年による。間伐の昭和38年以降の分、および除伐の分の単位は本である。 |
表62は、平成十二年度末における市有林のうち、営林事業を行っているものに限って箇所別、樹種別の概要を示したものである。七箇所、一二四一ヘクタールの林地において、現在も施業計画に基づき営林事業が行われている。樹種別でみるとカラマツの人工造林地が六九パーセント、トドマツが八パーセント、天然林が二一パーセントとなっている。
表-62 市有林(営林事業地)箇所別・樹種別の概要 | (単位:ha) |
箇所 樹種 | 総数 | 白旗山 | 有明の滝 | 有明 | 常盤(1) | 常盤(2) | 南の沢 | 川沿 | 中の沢 | |
合計 | 1,240.7 | 1,033.5 | 82.8 | 56.4 | 30.5 | 8.0 | 20.1 | 3.4 | 6.0 | |
人工林 | 計 | 969.9 | 876.9 | ― | 41.9 | 27.4 | 8.0 | 15.7 | ― | ― |
カラマツ | 849.9 | 758.3 | ― | 41.3 | 27.4 | 8.0 | 15.0 | ― | ― | |
トドマツ | 100.1 | 98.8 | ― | 0.6 | ― | ― | 0.7 | ― | ― | |
その他 | 19.9 | 1.9 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | |
天然林 | 256.8 | 143.2 | 82.8 | 14.5 | 3.1 | ― | 3.8 | 3.4 | 6.0 | |
無立木地 | 14.0 | 13.4 | ― | ― | ― | ― | 0.6 | ― | ― |
『札幌の公園・緑地』(平12)による。 |