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第一次オイルショックとパニック現象

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 昭和四十八年(一九七三)十月、第四次中東戦争の石油輸出削減に端を発した第一次オイルショックは、札幌市民の生活にどのように反映したのだろう。
 市内では同年十一月、一部のスーパーマーケットでトイレットペーパーが品切れした数日後、三倍に値上がりして店頭に並んだように(道新 昭48・11・8夕)、石油製品不足の情報から砂糖、合成洗剤などの買いだめとモノ不足および物価急騰現象が生じたが、けが人が出るほどの大パニックには至らなかった。石油パニック時における札幌の「主婦」の行動調査(表1)によると、半数の「主婦」は「買い置きしなかった」ものの、半数近くの「主婦」が品不足の不安にかられて多少の買い置きをしたことが分かる。パニックの情報源は八割近くがラジオ・テレビ・新聞のマスコミから得ており、店頭が空っぽになったのを見て知ったり、知人から聞いて買いだめした人は二割と少なく、消費者、販売者側もマスコミ情報に左右されていた。品不足の原因は消費者による買いだめや買い急ぎではなく、同年一月からの大手商社によるヤミ米の買い占めや「日本列島改造論」による土地、株、木材などの投機がインフレを発生させたところに石油危機が拍車をかけたことによる。売り惜しみや便乗値上げでモノ不足が発生し、物価は朝鮮戦争以来の上昇率となった。
表-1 札幌の「主婦」の昭和48年11月石油パニック時の行動調査
 調査実施日:昭和49年7月 対象:市内在住1,000人の「主婦」
 回答:61.9%
①あなたはどんな行動をとりましたか?
答え人数構成比%
・買い置きしない31450.7
・買い置き(パニック行動)をした8113.1
・買い置きしたが必要以上は差し控えた20633.3
・その他162.9
 
②品不足の原因は何だと思いますか?
答え件数構成比%
・メーカーが値上がり待ちで生産・出荷を控えた41550.5
・問屋・小売店が売り惜しみをした23428.5
・消費者の買いだめ買い急ぎ15619.0
・その他162.0
札幌市『生活物資等対策概要』昭49年度の「市民の生活動向及び生活物資等に関する意識調査」より作成。


写真-1 第1次オイルショックとペーパーパニック(道新 昭48.11.8夕)

 特に石油大手元売り会社のカルテルによる出荷調整や大幅便乗値上げ、商社の買い占めによる価格急騰は、冬を目前の市民にとってまさに死活問題であった。大幅値上げを拒否した札幌市民生協グループに対して灯油の供給を止めた元売りと卸業者を、公正取引委員会札幌地方事務所が立ち入り検査を行うなど(道新 昭48・11・16夕)、以降、取引を巡るトラブルや業者と消費者間での攻防は激しさを増した。
 政府は、四十八年に大豆や木材などの買い占めと売り惜しみを禁止する「生活関連物資の買占め売惜しみに対する緊急措置法」(昭和48年7月施行)に、灯油やトイレットペーパー、ちり紙、重油、液化石油ガス(以下、プロパンガスと称す)などを追加指定したのに続いて、十一月にはマイカーや給油所の休日営業の自粛など、不急のレジャー輸送の抑制、週休二日制の実施など石油節約運動を国民に喚起させた。官庁は公用車の運行を削減し、冬期室温は二〇度未満に落とすことが開始された。ススキノ歓楽街は大型ネオンの点灯を自粛し、重油燃料の公衆浴場はやむなく営業時間を短縮した。また、市内ガソリンスタンドも「一一〇万都市の一斉休業は車社会の無視だ」(道新 昭48・11・24)との声もあったが、十一月二十五日の日曜日、一斉に休業し、国鉄が企画した「ディスカバー・ジャパン」のレジャー産業も一時中止するなど(朝日 昭48・11・17)、石油関連に対する総需要の抑制策が始まった。