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学校週五日制と「ゆとり」

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 平成三年十二月十九日に、文部省の学校週五日制協力者会議は「社会の変化に対応した新しい学校運営等の在り方について」の中間答申を発表した。答申では「子供が主体的に使える時間を確保し、遊び、自然・社会・生活体験などの機会と場を増やすことが大切」として、段階的な学校週五日制導入を提言した。これは学校教育に心身ともに疲れている子どもたちに「ゆとり」を与え、自由にのびのびと活動する時間を与えるものであった。月一回の土曜日休業は四年九月から行われたが、その直前の八月四日までに市教委は、市内の予備校、学習塾など四〇〇カ所へ、子どもの塾通いを招かぬよう協力を要請する文書を発送した(道新 平4・8・5)。また週五日制に対応して一五項目におよぶQ&A方式で説明した教師向けのマニュアルを作成し、市教委の広報誌「かけはし」第四号に掲載した。例えば「授業時間数削減に伴う学校行事の見直し」については「遠足と写生会を統合する、合唱コンクールを音楽の時間に取り組む」、「非行・事故防止」については「充実した自由時間を過ごすにはどうすればよいか指導するとともに、家庭と協力して基本的生活習慣や社会性を身につけさせることが一層必要となる」といった内容であった(道新 平4・8・7)。平成四年度の文部省の調査によれば、導入前に比べて教育時間数が減った学校は小学校で六五パーセントであったが、中学校と高校では約四〇パーセントにとどまり、行事やゆとりの時間を削ったり、平日の授業時間への上乗せが目立った(道新 平5・9・11)。これらは、学習の内容量はそのままにして、月一回の土曜休業を行ったから起こった現象である。しかし、文部省は月二回の土曜休業を行った実験校の調査から、現行の指導要領の内容量で月二回の休業は可能であるとした。市教委による市内一三の委託校でも同様の結果が示された(道新 平6・1・28)。そして七年四月から月二回の土曜日休業が開始された。
 さらに、十四年四月から完全週五日制が実施された。学習量をそのままにすることはできず、指導要領の改訂にあわせたものであった。新指導要領は教育内容を三割削減し、「ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実」すること、「自ら学び自ら考える力を育成すること」などをねらいとして改訂され、新しく「総合的な学習の時間」が導入された。しかし、新要領が発表されると「学力低下批判」が起こった。文科省は十四年一月十七日に「確かな学力の向上のための具体的な方策」と題した方針を発表した。文科省は学力低下はないという立場を堅持しつつ、一人ひとりの習熟度に応じた指導を打ち出し、放課後の補習授業、宿題をだして家庭学習の機会を増やすことなどを提言した。これは事実上の路線転換と受け止められた。事実、十五年十二月に発展的な内容を含めた新要領の一部改正が行われた。子どもたちの自主的・自発的な学習を「ゆとり」ある環境の中で支援するはずのものが、大きく転換したと考えられる。なお新要領に伴う教科書改訂に際しては、特に中学校社会科系の教科書採択に関して「新しい教科書を作る会」作製の教科書について、その内容の論議が沸騰した(第六章第一節参照)。