ビューア該当ページ

市民と文学との出会い

886 ~ 887 / 1053ページ
 一方、市民の日常生活においても、文芸作品との出会いの場はさまざまに作られていた。市立図書館は三十一年に成人講座「文学作品鑑賞会」を開講し、小笠原克、川辺為三倉島齊澤田誠一木原直彦神谷忠孝らを講師に、五十年代も引き続き現代文学を鑑賞した。市民の文芸作品の優秀作を収載する総合文芸誌『さっぽろ市民文芸』は五十九年の創刊であり、以降、年一冊の刊行が続いている(表1札幌の文学賞参照)。
表-1 札幌の文学賞
賞の名称札幌市民芸術祭大賞北海道新聞文学賞北海道新聞短歌賞北海道新聞俳句賞らいらっく文学賞
主催札幌市民芸術祭実行委員会・札幌市・(財)札幌市芸術文化財団北海道新聞社北海道新聞社北海道新聞社朝日新聞北海道支社
創設年昭和59年昭和42年昭和61年昭和61年昭和55年(平成16年で終了)
備考「さっぽろ市民文芸」に掲載平成元年まで「女性の小説」の名称
昭47遠藤紫 句集「壷」
 48なし
 49*平松勤 歌集「幻日」
*寺久保友哉 小説「停留所前の家」
 50*木原直彦 評論「北海道文学史明治編」
 51岡崎正之 歌集「帽灯」
 52*高橋揆一郎 小説「観音力疾走」
 53中沢茂 小説「紙飛行機」
 54かなまる・よしあき 小説「証人台」
*佐々木逸郎 詩集「劇場」
 55*上西晴治 小説「コシャマインの末裔」*沓沢久里「鶴の泪」
 56吉田十四雄 小説「人間の土地」
*水口幾代 歌集「散華頌」
*高久裕子「金髪のジェニーさん」
 57*田中和夫 小説「残響」なし
 58*小檜山博 小説「光る女」
*島 恒人 句集「風騒集」
*山下邦子「影絵の街」
 59なし*川辺為三 小説集「岬から飛べ」
鳥居省三 評論集「異端の系譜」
*岡井満子「仮りの家」
 60なし土居良一 小説「夜界」*山路ひろ子「ある夏の断章」
 61(奨励賞1点)*山川 精 詩集「哈爾賓難民物語」*田村哲三「潮位」金谷信夫「悪友」*飯豊深雪「うつむいた秋」
 62なし*熊谷政江 小説「マドンナのごとく」時田則雄「凍土漂白」阿部慧月「花野星」鎌田理恵「昆布番屋」
 63(奨励賞5点)朴重鎬 小説「回帰」*松川洋子「聖母月」松井満沙志「海」阪本直子「イントロダクション」
平 1(奨励賞6点)*吉井よう子 小説「伐り株」*今川美幸「基督の足」*笠松久子「樫」*江藤あさひ「階段をのぼれ」
  2(奨励賞7点)*甲斐ゆみ代 小説「背中あわせ」
*斎藤邦男 詩集「幻獣図譜」
野江敦子「火山灰原」*永田耕一郎「遥か」*蒲生ゆかり「月も 夜も街も」
  3(奨励賞5点)木村政子 小説「爛壊」寺西百合「冬木立」*岡澤康司「風の音」原田由美子「夏のうしろ姿」
尾川裕子「星祭り」
  4小説「母の伝言」渡辺美代子吉田典子 小説「妹の帽子」大塚陽子「酔芙蓉」松橋英三「松橋英三全句集」*井上茅那「三コーナーから大まくり」
  5(奨励賞5点)佐野良二 小説「闇の力」
*工藤正廣 評論「ロシア・詩的言語の未来を読む―現代詩1917-1991」
高辻郷子「農の座標」*鈴木光彦「黄冠」水野佳子「愛されない僕と、愛せない僕」
  6(奨励賞4点)北村巌 評論「島木健作論」中島三枝子「春の胞子」木村照子「冬麗」北城景「凍てるスニーカー」
  7(奨励賞1点)*鎌田純一 小説「凍裂」
倉内佐知子 詩集「新懐胎抄」
(佳作2点)*河草之介「円周率」杉村静「波ばかり…」
  8(奨励賞3点)平野温美 小説「白い月」*野田紘子「麒麟の首」*高橋逓火「忘釜」高橋あい「星 ふるえる」
  9小説「クリスマスツリー」畑楽和嗣 小説「緋の襦袢」池上芙佐子なし(佳作2点)*藤谷和子「生年月日」*宮原寧子「雪線」
 10小説「群青」松尾大生 戯曲・脚本「繭の家」青山郁子木下順一 小説「湯灌師」高昭宏「北海」*飯野遊汀子「心音」野水あいら「美しい記号」
 11(奨励賞6点)*桃谷方子 小説「百合祭(佳作1点)松倉ゆずる「雪解川」舘有紀「木漏れ日」
 12詩「五月のかざぐるま」浅野政枝 戯曲・脚本「歩いた時間」木村 洋金行康子 詩集「禁猟区」和嶋忠治「月光街」小田幸子「薔薇窓」今井恭子「引き継がれし者」
受賞時札幌市在住者は、名前の前に*を付した。

 五十年代には全国的に児童図書館づくりの動きが起こっていたが、それを受けて、札幌でも五十三年八月に第一回「北海道子どもの本のつどい」が開催された。子育て世代の母親たちの関心は高く、各地区センター、図書館に童話・児童文学の会が誕生した。山の手図書館は五十五年から隔年で童話創作講座を開講、長野京子柴村紀代らを講師に、『のんびり貝』『赤い靴』『白いぼうし』などのサークル誌も生まれた。南区民センターからは五十六年に『くさの芽』、厚別図書館の講座からは、平成二年に『かたつむり』も誕生した。
 〈読む〉側から〈書く〉側になった母親たちに、作品発表の場も新設された。四十九年、市青少年婦人部は「お母さんの手づくり童謡・童話・詩・育児体験記」公募を始めたが、女性たちの創作活動を高め、その作品を通して子どもの情操教育を進めようと企画されたものである。入選作は五十年から六十三年まで、毎年『さっぽろのお母さんが書いた作品集』に収録された。応募作は毎年三〇〇から四〇〇点にのぼり、六十三年までの一五年間で、総数は五一六九点に及んだ。平成二年にはそれらをまとめた『さっぽろのお母さんが書いた作品集・総集編』も刊行された。
 広く市民に北海道文学の遺産を語り伝えたいという願いは、平成七年(一九九五)の北海道立文学館開館(中島公園内)で結実した。開館までの経緯は、同館常設展図録『北海道文学の流れ』に詳しい。