しっかりやれ

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          龍 峰
しっかりやれ、しっかりやらなくてはならぬ。こんな自然の叫びを何時も腹のどん底から真に呼び起す。やっぱしおれにも人並の努心はある、功名心があるおれは偉らくなるに違いない、見て居れ、今だに今きっと偉くなる。どんと自惚(うぬぼれ)がある、この自惚が頼母(たのも)しいのだ。
    考へ過ぎるな
おまへはあまり物事を考へ過ぎるで駄目だ。最(も)っと大きくなれ。人がおまへを笑ふとも、おまへは自分に自ら笑ふな。やれ若い時だなければ駄目だ、ちようどおまへの精神は老人の様だ、老人の様にされて居るのだ、真実にさうだか、僕は今からやれるだけやって見る。それがよい。
    泣 く な
物質の欠乏に泣いて居る、自分の貧弱に泣いて居る、そこで泣いて居るは唯(た)だ下校の生徒です。おまへは総べてに弱い、早やおまへは何物かに負けて居りはせぬか、神は君のを試して居るのだ、大事な所は此だ、立派に立てやれ、後にはおれが居るではないか。
    おのれ金の奴
貴様はおれを馬鹿にして居る、おのれ金の奴、常に自分を屈伏さして居やがる。何にくそ、おのれ如きに自分の大事な物まで奪はれたまるものか。おのれが100万円でおれに向ふとも、おれには骨のある一つの腕がある、おのれに勝さるがあるのだ。見事やるならやって見ろ。一番これから肌ぬいでおれののある所を見せてくれん、おのれを屈伏せしめた時はおれはおまへを踏盤にして宝を見事に取ってくれるに。
    斯くなるは至当(しとう:ごくあたりまえなこと)
おれだって一匹の人間だもの、努によって大臣になって見る位は出来るさ。小さい乍(なが)ら大臣になる迄の資格の素質は持って居るからな。そうだ々斯くなるのが君の至当さ。
    おまへ何物だ
おまへは何者だ、世の中に押しも押されぬ人間さ。では偉らくなる気かい、そりやそうさ偉らくならなくて堪まるものか。ではおまへに問ふ、おまへは脳は確かい、体質はあるかい。大丈夫脳だて人並ある、はい体質だってこんなものだじや。君は偉い、さて金はあるかい、金はない。それでは駄目だ世の中の落伍者だ。えへんそんな奴は足か手のない奴だ、おれにはそんな寝言はきかないぞ。
 
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