[解説]

信州善光寺御堂額之写
長野郷土史研究会 小林一郎

 善光寺に奉納された絵馬を解説した木版刷りの小冊子です。善光寺の境内や門前で、参拝土産として販売されたものです。売られた店や宿坊により、体裁や表現に多少の違いがありますが、どれもほぼ同一の内容です。この冊子は宿坊の常智院で販売されたものです。
 ここに納められた絵馬は寛政6年(1794)のものが最も古いので、それ以後の出版であることが分かります。何度も出版を繰り返したらしく、明治15年(1882)には信州長野書林松葉軒の西沢喜太郎が増補し、『信州善光寺御堂額之写并ニ霊験記』として出版しています。
 江戸時代の善光寺は、本堂絵馬を奉納する習慣がありました。「御堂額」とは、善光寺本堂に奉納された絵馬のことです。善光寺本堂は明治41年(1908)に特別保護建造物に指定されたため、堂内に絵馬を掲げることができなくなりました。取り外された絵馬の一部は現在、日本忠霊殿内の善光寺史料館に展示されています。
 善光寺に奉納された絵馬には様々な種類がありますが、『信州善光寺御堂額之写』に紹介されているのは、主に善光寺如来のご利益に対する御礼の気持ちを表したものです。中でも有名なのは長崎の中村吉蔵が奉納したもので、この話は一枚刷りの刷り物にもして販売されました。その絵馬は「幽霊の絵馬」として本堂内でも有名なものでした。『二十四輩順拝図会』の善光寺堂内の図には、掲げられた「幽霊絵馬」を見上げる人々が描かれています。現在この絵馬善光寺史料館に展示されています。
 善光寺の本尊は阿弥陀如来で、極楽往生を祈るのが本来ですが、実際には病気平癒など切実な願いで参詣する人が多かったことが分かります。